最新記事

事件

謎の2人組に銃撃され著名コメンテーター死亡 メディア暗黒時代のフィリピン

2021年7月27日(火)11時00分
大塚智彦

コルテス氏は地元ラジオ局「dyRB」で「エンカウンター(邂逅者)」という自らの番組をもっており、地元社会に存在する政治・経済・社会・文化のあらゆる問題、テーマを取り上げていたとされ、警察では「そうした活動のどれかが、犯人につながる人物の怒りをかった可能性がある」としており、殺害がコルテス氏の報道関係者としての活動と無縁ではないとの見方を示している。

フィリピンはメディア暗黒時代の只中

こうしたフィリピンのメディアに対する「殺害を含めた暴力」が蔓延する状況は、マルコス独裁政権時代からの「伝統」で、特に現ドゥテルテ大統領が就任した2016年以降、「報道関係者への暗黒時代が再び登場した」と内外から厳しい指摘が出ている。

ドゥテルテ大統領は「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない、もしその活動が邪悪なものであれば」と公言して憚らないほど自らの政権やその活動に批判的なメディアを敵視している。

著名な元CNN記者だったマリア・レッサさんらが運営するネットメディア「ラップラー」によるドゥテルテ大統領の主導する麻薬犯罪関係者に対する捜査現場での殺害などを助長する「超法規的殺人」に対する手厳しい批判に、ドゥテルテ政権はマリアさんへの「名誉棄損」容疑の拘束や訴追、「ラップラー」社への度重なる税務調査などの「嫌がらせ」を続けている。

また2019年7月10日午後10時ごろには南部ミンダナオ島コタバト州の州都キダパワンで地元ラジオ局の記者でニュース番組のアンカーを務めていたエドゥアルド・ディゾン氏が帰宅するため車に乗っているところに正体不明の2人組がバイクで接近し、発砲。ディゾンが殺害される今回のコルテス氏襲撃に酷似した事件も起きている。

ディゾン氏や勤務先のラジオ局には殺害前に複数の脅迫が届いており、地元警察に届けたものの、警察は動かなかったという。

このようにフィリピンのメディアは現在、「暗黒時代」に直面しており、そんななかでもドゥテルテ政権や地方政府、地方の圧力団体やギャング組織などとの闘いを続け、記者やメディア関係者は「命がけ」で真相報道を試みている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「CT写真」で体内から見つかった「驚愕の塊」
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中