最新記事

公園

ニューヨークの新名所「リトルアイランド」の素晴らしさと、厳しい現実

The Big Problem With Little Island

2021年6月25日(金)17時59分
ヘンリー・グラバー
リトルアイランド

チューリップ形の支柱が並んだ構造が目を引くリトルアイランドは都会の中のオアシス的な楽しさが魅力だが MICHAEL GRIMM

<市民の憩いの場は、資金も運営も民間の「善意」が頼り。過密都市ニューヨークのジレンマが浮き彫りに>

ニューヨークでも特に目を引く2つの新名所はどちらもイギリスのデザイナー、トーマス・ヘザーウィックの作品だ。銅色の鋼鉄で覆われた高さ約45メートルの展望台「ベッセル」は2019年に、ハドソン川に浮かぶ水上公園「リトルアイランド」は今年5月にそれぞれオープンした。

ベッセルは世界でもまれに見る大失敗に終わった。総工費2億ドル。多数の階段で構成された蜂の巣状の構造が特徴で、ニューヨークの再開発プロジェクト「ハドソン・ヤード」の目玉になるはずだった。

ところが実際は、周囲が殺風景で最上階からの眺めも地上からと変わらなかった。車椅子利用者にはひどく不便で、ベース部分の段に座ろうとすると警備員に止められた。

隣のオフィスビルはコロナ禍で閑散とし、ベッセルは自殺の名所に。約1年で3人目の自殺者が出たのを受けて、今年1月に一旦閉鎖された(その後、自殺予防策を講じて5月末に再開)。

その頃には世間の注目はリトルアイランドに移っていた。5月21日にオープンした水上公園を支えるのは、同じくヘザーウィックが手掛けた12年ロンドン五輪の聖火台を思わせる、チューリップ形のコンクリート製支柱132本。奇跡のような構造は岸から見て壮観だが、公園の魅力はもっとシンプルな楽しさにある。

すべては大富豪バリー・ディラーのおかげ

約1ヘクタールの敷地は急傾斜のスロープで細かく仕切られ、探検にぴったり。アメリカの造園家シグネ・ニールセンが手掛けた緑豊かな庭園には、車椅子も通れる小道が走る(岩でできた近道は子供たちが大喜びしそうだ)。

ほとんどの訪問者は高台や展望台に向かうが、イチオシは円形劇場。木製ベンチが並び、街の喧噪を忘れてくつろげる。トイレも市内の公共施設では指折りの快適さだ。

全ては最大のスポンサーであるメディア王バリー・ディラーのおかげだ。ディラーは建設費として2億6000万ドル、さらに今後20年の維持費も負担した。大失敗したハドソン・ヤードとベッセルのスポンサーも、やはり大富豪のスティーブン・ロスだ。

個人の富は無限にあり、公共機関のできることには限りがある時代に、公益事業で最善の成果を上げるには博愛主義者をその気にさせるのが一番かもしれない。ハドソン川に水上公園を造ろうと思ったら、以前はイベントで資金を調達する必要があった。ディラーはその資金を、いやそれ以上のものをもたらした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 8
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 9
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 10
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中