最新記事

エスピオナージ

中国高官がアメリカに亡命の噂、ウイルス起源の証拠が手土産?

Who Is Dong Jingwei? Alleged China Defector's Disappearance Shrouded in Mystery

2021年6月23日(水)16時59分
ジョン・フェン
中国国家安全部の董経緯副部長

アメリカに亡命したと噂される中国国家安全部の董経緯副部長 WION-YouTube

<中国国家安全部の副部長の亡命が本当なら、アメリカに亡命した最高位の中国人になる。それも新型コロナウイルスが人為的に作られた証拠を携えているという>

中国共産党の最高幹部の一人がアメリカに亡命したという未確認情報が立て続けに報じられ、関心を集めている。しかもこの人物は、いわゆる新型コロナウイルス人工説を裏付ける、中国にとって不利な機密情報を持ち出したというのだ。

アメリカの保守系ニュース解説サイト「レッドスター」と、諜報業界のニュースレター「スパイトーク」は、アメリカに亡命した高官の正体として、中国国家安全部副部長という要職にある董経緯の名を挙げた。

中国政府は董(57)に関する噂についてまだ正式にコメントしていないが、米政府筋は本誌に、この話は「絶対に真実ではない」と語った。一方、中国のインターネット・コミュニティのなかには、董の居所を疑う声もある。

6月4日に中国の亡命者に関する情報を初めて明かしたのはレッドスターだ。その後2週間、このサイトは董の名を明かさなかったが、この高官は米国防総省情報局 (DIA)のもとに身を寄せており、生物兵器を含む中国の特殊兵器計画に関する機密情報を携えていたと報じた。

6月11日の続報では、亡命した高官が新型コロナウイルスの発生源に関する証拠を提供した、と報じた。それによると、新型コロナウイルスは、武漢ウイルス研究所で人民解放軍のプロジェクトの一環として遺伝子操作によって作り出されたという。

娘と香港経由で渡米

董がDIAを頼ったのは、DIAがあまりにも秘密に包まれた存在で、FBIの長官もCIAも何も知らないほどだからだ、とレッドスターは匿名の情報源を引用して報じた。

董の名前は6月17日に、レッドスターおよびスパイトークが公表した。同時に、董が2月に香港を経由して娘と一緒にアメリカに渡ったという経緯も伝えられた。

新型コロナウイルスの発生源に関する証拠の提供に加えて、董は中国に情報を渡している米政府当局者のリストと、アメリカで活動する中国のスパイの名前を米情報機関に教えたという。

アメリカに拠点を置く民主化活動家で中国から亡命した韓連潮は6月16日にツイッターで、董の亡命は、3月18日と19日にアラスカで行われた米中外交トップ会談で議論されたテーマの一つだったと述べた。ここで会談したのは、アントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、中国側が最高位の外交官である楊潔篪(ヤン・チエチー)および王毅(ワン・イー)外相だ。

中国側は董の送還を要請したが、アメリカ側は当時、董の亡命を知らなかったため、そんな人物はアメリカにはいないと主張したと、レッドスターは伝えた。

6月17日に董の名前が発表され、アメリカ内外の中国語ニュースサイトに噂が出回り始めて24時間も経たないうちに、中国の国家安全部は董がごく最近、スパイ摘発のためのセミナーに出席していたと主張し、亡命説を暗に否定した。

セミナーは6月18日に開催され、董は外国への浸透戦術とスパイ活動について情報当局者らの注意を喚起し、特に「反中」活動を行うために「外国の情報機関と共謀している」当局の「内通者」がいると警告したという。

中国共産党中央政法委員会のウェブサイトはこのセミナーに関する報告書を掲載しているが、会議が行われた場所が明記されておらず、董や他の参加者の写真も掲載されていなかった。

スパイトークの記事によれば、中国の元情報当局者は、董の亡命は噂にすぎないとほぼ否定した。レッドスターは、情報源を支持すると主張した。

この話が事実と確認されれば、董経緯は中華人民共和国の建国以来、アメリカに亡命した最高位の役人ということになる。

この亡命話のもとは、中国の国家安全保障関係組織内部にあるかもしれないという理論を立てる人々もいる。これが計略であるとすれば、中国のネチズンたちが疑問に思う点もいくつかある。

中国最大のソーシャルメディアサービス新浪微博(ウェイボー)のユーザーは、董が登場したという18日のセミナーに関する報告を投稿した。依然、写真やその他の詳細な情報がないことから、納得していない人もいる。

7月1日には、中国共産党結党100周年という大きな節目が迫っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中