最新記事

アフリカ

ワクチンが不足すればテロが増える──アフリカのコロナ禍

2021年6月14日(月)16時15分
ローズ・ナマヤンジャ(元ウガンダ情報相)
ワクチン接種を受けるケニアのツアーガイド

COVAX供給のワクチンの接種を受けるケニアの観光ツアーガイド MONICAH MWANGI-REUTERS

<ワクチン接種の遅れるアフリカでは、コロナ対策が必然的にロックダウン頼みとなり、経済不安と貧困がテロ組織を勢いづけている。世界の責任とワクチン確保に努めるべき理由とは?>

アフリカ諸国の指導者は5月中旬、パリにおいて、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)後の経済復興について話し合った。この国際会合で浮き彫りになったのは、コロナワクチンの不足がロックダウン(都市封鎖)と深刻な不況、イスラム過激派のテロ復活に直結するという共通認識だった。

アフリカ大陸の人口は約13億人。世界全体の約16%だが、ワクチンの接種量は世界の2%に満たない。ウガンダでは、ワクチン接種済みの国民は人口のわずか1%だ。

アフリカ大陸には大規模なワクチン製造施設がないため、供給を世界の他地域に頼っている。しかし、低所得国への公平なワクチン供給を目指すCOVAXのような国際的取り組みは、十分に機能していない。

重要なワクチン製造拠点のインドで感染が急拡大し、アフリカへのアストラゼネカ製ワクチンの供給が大きく落ち込んだことは特に深刻な問題だ。しかし、それ以外の問題はやり方次第で解決できる。

COVAXは、高所得国がワクチンを共同購入して低所得国に無償提供する仕組みだが、ほとんどの高所得国は製薬会社と個別に2国間契約を結んでいる。そのためCOVAXへの資金拠出は不足し、高所得国ではワクチンの余剰が発生している。

一方、アフリカ諸国の政府は限られた資源をコロナ対策に取られているため、各地でテロが活発化している。アフリカ中央部のチャド湖周辺では、数年前に周辺諸国が協力してほぼ壊滅させたイスラム武装組織ボコ・ハラムが復活。モザンビーク北部でも、イスラム過激派の攻撃が急増した。

サハラ砂漠南縁部のサヘル地域では、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)の関連組織が多数出現し、地域社会を脅かしている。これらのテロ組織を勢いづけているのは経済不安と貧困、絶望と飢えだ。

十分なワクチンが入手できなければ、状況は悪化する一方だ。アフリカ諸国は感染防止策として、経済にダメージを与えるロックダウンのような手段に頼るしかない。その結果、企業活動や消費が停滞し、世界で最も貧しい国々に深刻な影響を与えている。

影響を受けるのはアフリカだけではない。紛争の激化はグローバルなサプライチェーンを破壊する恐れもある。それによって鉱物資源の採掘コストが上昇すれば、高所得国も打撃を受けかねない。

紛争を別にしても、低所得国のワクチン接種の遅れが世界経済に与える影響は甚大だ。国際商業会議所(ICC)の予測では、世界経済の損失は9兆ドルを超え、そのうちの約50%はワクチン接種を済ませた高所得国がかぶることになるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

武田薬品のてんかん治療薬、後期治験で主要目標達成で

ワールド

プーチン大統領18日訪朝、24年ぶり 関係強化の動

ワールド

中国のEU産豚肉調査、スペインが交渉呼びかけ 「関

ワールド

パレスチナ自治政府、夏にも崩壊 状況深刻とノルウェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 5

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 6

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドン…

  • 7

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 8

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 9

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 10

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中