最新記事

インドネシア

「押しかけ」中国海軍の長居は迷惑!? インドネシア、沈没潜水艦回収を断念

2021年6月3日(木)20時20分
大塚智彦
沈没したインドネシア海軍の潜水艦「ナンガラ402」

バリ島北方海域の海底に沈没したインドネシア海軍の潜水艦「ナンガラ402」 Antara Foto Agency - REUTERS

<通常訓練のため潜航したまま消息を絶った潜水艦の引き上げは国際政治の波にも襲われて──>

インドネシア海軍は6月2日、4月に沈没事故を起こした潜水艦の海底からの船体回収作業を断念したことを明らかにした。

船体回収には深海での作業が可能な中国海軍の特殊救難艇など3隻が中国から駆けつけてインドネシア海軍と協力して作業を進めていたが、「回収作業は大きな困難に直面し、断念せざるを得なかった」と回収作業の中止を明らかにした。

水深約800メートルの海底で発見された潜水艦の船体とともに乗組員53人は既に死亡が宣告され、いまだに遺体は発見、収容されていない。

中国海軍による回収作業協力には潜水艦が沈没したバリ島北方周辺海域で潜水艦航行に必要な海底の地形、潮流、水温などのデータ収集への懸念が浮上していたが、海軍によると回収断念とともにすでに中国海軍の艦艇3隻は現場海域を離れているという。

原因究明も進まず、中国の突然の登場

事故は4月21日午前4時半ごろ、海中からの魚雷発射訓練を行うためバリ島北約90キロの海域で潜航を始めたインドネシア海軍所属の「KRIナンガラ402」潜水艦から突然連絡が途絶えた。

「水中波」と呼ばれる海水の強い密度差の影響で操縦不能に陥った可能性と同時になんらかの理由で潜水艦の電源が消失し、予備電源も作動しなかったことなどが原因とみられていた。

「ナンガラ402」の最大耐久水深は約500メートルとされていたが、捜索救難活動で船体が水深約800メートルにあり、水圧によるとみられる破壊で3つに分断された船体が確認され、乗組員は全員絶望といわれた。

捜索救難活動にはインドネシア海軍に特殊艦艇や潜水艦救難艇などの装備が不十分であることからシンガポール、マレーシア、インド、オーストラリア、米などが艦艇や航空機を派遣してインドネシア海軍に協力していた。

海底の船体発見、乗組員全員の死亡認定を受けて作業は「捜索救難」から「船体回収」に移行し、各国の艦艇、航空機は現場を去った。その直後の5月4日に中国海軍のサルベージ装備艦や深海での作業が可能な特殊艦艇など3隻が現場に唐突に到着した。インドネシア海軍は中国海軍の支援が始まることを発表、インドネシアとの協力で「海底の船体回収」作業に着手することを明らかにした。

在インドネシア中国大使館の肖千大使は「インドネシアの要請に基づく今回の協力は人道支援に寄与するものである」とあくまで人道支援に基づく協力であることを強調した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エーザイ、26年3月期の営業益微増の見通し 米関税

ワールド

ユーロ圏GDP、第1四半期改定値前期比+0.3% 

ビジネス

IEA、年内の世界石油需要鈍化を予想 経済逆風やE

ビジネス

植田日銀総裁、16日午前9時半から衆院財金委に出席
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 5
    宇宙から「潮の香り」がしていた...「奇妙な惑星」に…
  • 6
    終始カメラを避ける「謎ムーブ」...24歳年下恋人とメ…
  • 7
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 8
    iPhone泥棒から届いた「Apple風SMS」...見抜いた被害…
  • 9
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 10
    対中関税引き下げに騙されるな...能無しトランプの場…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中