最新記事

ウイルス起源

武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得実験を行っていた

Exclusive: How Amateur Sleuths Broke the Wuhan Lab Story

2021年6月4日(金)22時30分
ローワン・ジェイコブソン

もちろん、リベラがこんなシャーロック・ホームズばりの推理を行なわなければならなかったのは、武漢ウイルス研究所が彼らの求めるデータを出さないからだ。研究所のウェブサイト上にはデータベースがあり、そこには未発表のものも含め、これまでに収集したウイルスの全データが掲載されていたが、今そのページは真っ白になっている。

2021年1月、石正麗はこのデータベース消失について聞かれると、パンデミックの発生後に同研究所のサーバーがオンライン攻撃の標的になったため、データベースをオフラインにしたのだと説明した。だがDRASTICはこの説明にも矛盾を見つけた。ウェブサイト上からデータベースが消えたのは2019年9月12日で、パンデミック発生の少し前だったし、研究所のサイトが狙われるようになったのは、もっとずっと後のことだったと。

そのほかのデータベースからも、複数のヒントが得られた。シーカーは武漢ウイルス研究所の助成金申請記録の中に、研究計画の詳細な記述を発見したが、そこに彼らの「悪事」が記されていた。ヒトや実験用動物の細胞を使って、SARSウイルスに似た複数の新型ウイルスの感染力を試し、異種間の感染でウイルスがどう変異するかを検証したり、複数の異なるウイルスの一部を再結合させたりするプロジェクトが進められていたのだ。しかもいずれのプロジェクトも、ひどく杜撰な安全基準の下で行なわれていた。大惨事を引き起こす全ての材料が揃っていたのだ。

隠蔽は、何かがうまくいかなかった証拠

もちろんこれは、実際に大惨事が起きたことを証明するものではない。目撃者の証言でもない限り、それが証明されることはないだろう。

だがDRASTICが入手した全ての証拠は、どれも同じことを示唆している。武漢ウイルス研究所は長年、危険な複数のコロナウイルスを収集し、その一部を世界に公表してこなかったということだ。しかも研究所はそれらのウイルスについて、ヒトへの感染力がどの程度か、どのような変異が起きれば感染力がさらに強くなるのかを知るために、積極的に機能獲得実験を行っていた(おそらくワクチンの製造のためだったのだろう)。そして彼らが今そのことを隠蔽しようとしているということは、何かがうまくいかなかった可能性を示唆している――。

2021年の早い段階までには、DRASTICの入手した情報が追跡しきれないほど膨大になったため、彼らは情報の保管場所として独自のウェブサイトを立ち上げた。同サイトには、好奇心旺盛な「探偵」たちを何カ月も夢中にさせておくのに十分な数の科学論文やツイッターのスレッド、中国語の文書の翻訳版やさまざまな記事へのリンクが掲載されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中マドリード協議、2日目へ 貿易・TikTok議

ビジネス

米FTCがグーグルとアマゾン調査、検索広告慣行巡り

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も下落続く 追加政策支援に期

ワールド

北朝鮮、核兵器と通常兵力を同時に推進 金総書記が党
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中