最新記事

ウイルス起源

武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得実験を行っていた

Exclusive: How Amateur Sleuths Broke the Wuhan Lab Story

2021年6月4日(金)22時30分
ローワン・ジェイコブソン

RaTG13に関するもう1つの疑問に答えを出したのもリベラだ。その疑問とは、武漢の研究所は銅鉱山でRaTG13を発見してから7年の間に、このウイルスをいろいろいいじり回したのではないか、というもの。

ピーター・ダザックに言わせれば、答えはノーだ。RaTG13はSARSウイルスとさほど近縁ではなかったので、研究対象にならなかった。「面白いとは思ったが、さほど危険なウイルスではない」と、ダザックはワイアード誌に語った。「だから、特に何もせず、冷凍庫に入れた」

リベラは、この発言が嘘であることを証明した。ウイルスの遺伝子に関する新しい論文を発表するときには、執筆者は国際データベースにその配列を入力することになっている。武漢の研究所のスタッフがRaTG13の遺伝子配列と紐づけてうっかり入力したものがないか、リベラはメタデータのタグを詳細に調べた。そして2017年と2018年に、武漢研究所が熱心にRaTG13を研究していたことを突き止めた。冷凍庫にしまって、すっかり忘れていたというのは真っ赤な嘘だったのだ。

新型コロナの近縁種が9つも?

実際には、武漢の研究所はRaTG13をはじめ銅鉱山で採取したウイルスに並々ならぬ関心を寄せていた。リベラは自身が作成した巨大な数独パズルから、研究所のスタッフが最初の発見後少なくとも7回鉱山に行き、何千ものサンプルを収集したことを突き止めた。おそらく2012年と2013年の段階では解析技術がまだ未熟で、労働者を死に至らせたウイルスを特定できず、技術の改善に伴って、何度も採取に行き、解析を行なったのだろう。

リベラは大胆な予想も立てた。彼は複数の情報源から得た情報の断片を照らし合わせ、2020年8月1日付のツイッターのスレッドにある推測を投稿した。武漢ウイルス研究所が過去に作成したある論文の中で、短く言及されている「8つのSARS関連ウイルス」の起源が、RaTG13と同じ墨江ハニ族自治県の鉱山にあるのではないかという推測だ。

これはつまり、この鉱山で見つかった新型コロナウイルスの近縁種は1つではなく、9つだったという意味だ。石正麗は2020年11月に発表した(RaTG13について言及した同年2月の論文の)追加資料の中で、さらには2021年2月の発言の中でも、雲南省の洞窟についてDRASTICが指摘した疑問の多くを認めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中