最新記事

安全保障

拡大する中国包囲網...英仏も「中国は対抗すべき存在」との認識に

HERE COMES THE UK

2021年5月26日(水)18時06分
マイケル・オースリン(スタンフォード大学フーバー研究所)

210601P42boris_ISN_04.jpg

中国びいきだったはずのジョンソン英首相もインド太平洋への関与を強化 LEE SMITHーREUTERS

つまりアメリカの政策がどうあれ、問題は新たな敵を探すアメリカにあるのではない。むしろ自由主義陣営の国々は、自分たち独自の基準で中国を一定の脅威と判断している。

それを考えると、インド太平洋への関与を強めようとするイギリスの姿勢の変化も理解できる(ボリス・ジョンソン英首相は「熱烈な中国びいき」を自任しているが)。他の国々と同様、イギリスも「理想の中国」ではなく「現実の中国」に対処しなくてはならないと認識している。

この現実を踏まえれば、トランプ、バイデン両政権の従来より強硬な対中政策は理にかなっていると言える。特にアメリカ、日本、インド、オーストラリアのインド太平洋地域4カ国から成るクアッド(日米豪印戦略対話)は、この地域の主要な自由主義諸国間で共通の安全保障に関する合意形成に役立つ有益な国際的枠組みだ。アメリカとの軍事同盟に取って代わるものではないが、共通の規範と協力の促進という別の役割を果たすことができる。

今年3月にオンラインで開かれたクアッド首脳会合は重要な一歩だったが、この4カ国はより広範な目標と、主に安全保障と地域安定の分野でどのような共同行動が可能かという微妙な問題について議論を開始する必要がある。中国との緊張関係を考えると、クアッドが「反中連合」と見なされることは避け難い。

英仏にはクアッドを補完する力が

しかし、それを理由にこの枠組みを頓挫させることがあってはならない。米インド太平洋軍のジョン・アキリーノ新司令官とNSC(国家安全保障会議)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官は、クアッドを次の段階に進める上で重要な役割を担うことになりそうだ。

さらにアメリカとアジアの同盟国は、この地域の安定に懸念を抱くアジア以外の国々が果たし得る共通の役割も考える必要がある。現状では、その有力候補はフランスとイギリスだ。両国は開かれた貿易ルートに依存しているだけでなく、インド太平洋地域に多数の海外在住者を抱え、インド洋南部からオセアニアまでの各地に海外領土を保有している。

フランスは既に一連のアジア戦略を発表済みだ。イギリスは今年3月にまとめた外交・安全保障の新方針「統合レビュー」でインド太平洋への関与を強調した。

英仏がアメリカに匹敵する役割を果たせるとは誰も思わないが、その存在を無視することもできない。イギリスはこの地域に空母を派遣し、フランスは4月にクアッドの海上共同訓練に参加した。両国にはクアッドの日常的活動を支援し、より限定的な能力しかない日本、インド、オーストラリアを補完する力がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中