最新記事

原発

チェルノブイリで再び核反応くすぶる 中性子線量が上昇中

2021年5月21日(金)16時50分
青葉やまと
チェルノブイリ

チェルノブイリで再び核分裂反応が加速している REUTERS/Gleb Garanich/

<炉心下に残る燃料デブリが再びくすぶりはじめている......>

史上最悪の原発事故から35年が経ったチェルノブイリで、再び事故の懸念が浮上している。事故後の施設を監視している科学者たちが、中性子線量モニターの数値が上昇していることを確認した。

以前からいくつかのスポットで数値は上昇傾向にあった。今回問題となったのは反応炉の下方にあたる「原子炉下部区画305/2」と呼ばれる空間で、過去4年間で数値が2倍近くにまで増加していることが判明した。中性子線量の増加は、核分裂が加速していることを示す兆候だと考えられている。

事故当時の炉心溶融により、ウラン燃料、被覆材、制御棒、建造物の一部などが溶け込み、溶岩状の「燃料デブリ」となって原子炉下の階層に流れ込んだ。今も下部区画には燃料デブリが残っており、含まれるウラン燃料の量は170トンに相当すると見積もられている。

インディペンデント紙は再びくすぶりはじめた状況を憂慮し、「ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所を監視している科学者たちが、この大型建造物跡にある入室不能な部屋において、核分裂反応が突如始まっているのを発見した。さらなる爆発が現場で起きるのではないかとの懸念を招いている」と報じた。

核燃料に詳しい英シェフィールド大学のニール・ハイアット氏は米学術誌のサイエンス誌に対し、このままの傾向が続けば「核分裂反応が指数関数的に加速」し、「核エネルギーの制御不能な放出」に至る可能性があるとの懸念を示している。

現時点で事態の深刻さを評価することは難しく、今後必ず爆発事故に至るというわけではない。ハイアット教授はサイエンス誌に対し、「バーベキューピットの木炭の燃え残りのようなものだ」と例え、現状ではあくまでくすぶっているだけだと説明している。事態が深刻化するかを見極めるまでに数年の猶予があるものと見られる。

新造のシェルターが仇となった可能性が指摘されている

事故から35年を経たチェルノブイリで再び核分裂反応が加速している原因は不明だが、一説には近年新設したシェルターが原因ではないかと言われている。

チェルノブイリ原発は事故後、俗に「石棺」と呼ばれるコンクリートと鉄の構造体で覆われた。急造された石棺は密閉性が不足しており、雨漏りの問題を抱えていた。一般に、水は減速材として機能する。すなわち、水があることで中性子が減速してウランの原子核に当たりやすくなり、核分裂反応が促進される。大雨で石棺内部が増水すると中性子線量が急増することがあり、再臨界の危険が指摘されてきた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中