最新記事

話題作

「鬼滅の刃」世界的人気! 韓国でも反日感情を跳ね返す躍進続く

‘DEMON SLAYER’ SWEEPS SOUTH KOREA

2021年5月14日(金)19時58分
ソホ・リー

近代的な要素が初めて見えてくるのは、主要キャラが浅草を訪れる場面だ。浅草の町に新古典主義様式の高層建築がそびえ、伝統的な和装の人々と洋装の人々が行き交う。大正時代の文化様式やファッションを美化する「大正ロマン」の風潮は、他の作品でも見受けられる。ひょっとすると『鬼滅の刃』の作者もこの風潮に倣い、20世紀前半を舞台に伝統と近代性が交差するなかで、鬼が跋扈(ばっこ)する状況を描こうとしたのかもしれない。だが普通、20世紀前半の日本を描いた作品は韓国ではなかなか受けない。

こうした歴史的背景に拍車を掛けるのが炭治郎の耳飾り。韓国では日本の軍国主義の象徴とされる旭日旗を連想するとの声もあった。こうした見方に配慮して、映画でもネットフリックスのTVシリーズでも旭日旗に見えないデザインに修正された。

しかし、さまざまな障害にもかかわらず、劇場版『鬼滅の刃』は韓国で大成功を収めている。もっとも観客の評価は複雑だ。韓国第2位のポータルサイト、ダウム(親文在寅政権派や民族主義的なユーザーが多いとされる)では10点満点中5.9点。多くの人が日本を批判するコメントを添えて1点を付けた。一方、ポータルサイト最大手のネイバーでは9.31点となっている。

日本では第4次韓流ブーム

似たような現象は日本でも起きている。20年2月からネットフリックスで配信されている韓国ドラマ『愛の不時着』が、不安定な日韓関係をものともせず、大ヒットしたのだ。今年1月からは東京、大阪、福岡で『愛の不時着展』が開催されている(名古屋は6月4日から開催予定)。

日本の「韓流」人気そのものは、今に始まったわけではない。外務省が4月に発表した2021年版外交青書には、Kポップや韓国ドラマが「世代を問わず幅広く受け入れられ」、特に『愛の不時着』は20年の「流行語大賞の候補にも選ばれるほどの人気を集め、第4次韓流ブームの火付け役になった」とある。

『愛の不時着』人気が特別と言える点は、韓国での『鬼滅の刃』のヒットと同じように、いかにも失敗しそうな背景があることだ。何しろ『愛の不時着』は北朝鮮にスポットライトを当てている。

日本における北朝鮮のイメージは、1998年の「テポドン・ショック」以降の核ミサイル開発、70~80年代を中心とする日本人拉致事件、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)などに集約される。それを考えると、北朝鮮の将校を主人公に北朝鮮の生活をドラマチックに描いたドラマが大ヒットするのは、確かに意外だ。

恋愛ドラマとしては珍しく、年配の男性も取り込んでいる。20年7月に毎日新聞の山田孝男特別編集委員は、茂木敏充外務大臣に『愛の不時着』を見たかと聞いて、「全部見た。遅いよ」と笑われたという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イーライリリーの経口肥満症薬、2型糖尿病患者で体重

ビジネス

積極利下げの用意、経済の下振れ顕在化なら=マン英中

ビジネス

スズキ、EV強化へ80億ドル投資 インドの生産体制

ワールド

米政府、防衛関連企業への出資を模索する可能性=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    トランプ、ウクライナのパイプライン攻撃に激怒...和…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中