最新記事

中東

なぜエルサレムの衝突が、ガザでの7年ぶりの大規模戦闘にエスカレートしたのか

2021年5月14日(金)10時45分

これ以後戦闘は激しさを増し、パレスチナ武装組織側はテルアビブにロケット弾を打ち込む一方、イスラエルは数百回にわたってガザを空爆している。

イスラエル国内でもアラブ系とユダヤ系が雑居する都市では、ガザへの空爆や東エルサレムのパレスチナ人立ち退きを支持する判決に憤ったアラブ系住民の暴力行為が発生した。イスラエル国民の21%を占めるのがアラブ系だ。

ハマスの狙いとイスラエルの政局流動化

今回のガザにおける戦闘規模は2014年以降で最も大きく、国際社会には収拾不能になるのではないかとの懸念が広がった。

ただハマスは、こうした戦闘激化の状況を利用してパレスチナ自治政府のアッバス議長を窮地に追い込み、パレスチナ人にとってハマスこそエルサレムの守り手だと印象づけようとしているもようだ。

あるイスラエルの司令官が2月に明らかにしたところでは、ハマスは2014年以降にロケット弾約7000発、対戦車ミサイル300発、対空ミサイル100発を集積、PIJもロケット弾6000発を装備しているという。

何人かのイスラエルの評論家は、同国の政局が流動化しているのをハマスが行動の好機とみなした可能性もあると指摘する。イスラエルでは大統領が野党指導者に組閣を指示しており、ネタニヤフ首相が退陣する可能性が出てきている。ネタニヤフ氏が自身の汚職疑惑を巡る裁判に気を取られた影響で、エルサレムで緊張が高まり、それがガザに波及したとの見方も聞かれる。

対立の中心にあるエルサレム

エルサレムは政治、歴史、宗教全ての面で、イスラエルとパレスチナの幅広い対立の中心に位置する。

旧市街の真ん中にある「神殿の丘」は、世界中のユダヤ人にとってユダヤ教の最も神聖とされる一方イスラム教徒にとっても大切な場所だ。そこには古代のユダヤ神殿が置かれていたほか、「岩のドーム」とアルアクサ・モスクというイスラム教の2つの聖地が存在するからだ。

キリスト教徒にとってもエルサレムは、キリストが説教し、処刑された後に復活したとされる場所と信じられているだけに神聖視されている。

イスラエルはエルサレムを永遠かつ不可分の首都とみなし、パレスチナ人は東エルサレムを将来樹立する正式国家の首都にしたい考え。イスラエルによる東エルサレム併合は、国際的には承認されていない。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・【動画】ゲームにあらず、降り注ぐロケット弾を正確に捉えるイスラエルの迎撃ミサイル
・イスラエル、ハマス幹部16人を殺害 パレスチナ側はロケット弾で応酬
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可

ワールド

英仏日など、イスラエル非難の共同声明 新規入植地計

ビジネス

ロ、エクソンの「サハリン1」権益売却期限を1年延長

ビジネス

NY外為市場=円が小幅上昇、介入に警戒感
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中