最新記事

パンデミック

2万5000年前、東アジアはコロナの猛威を経験? 新型で死者少ない理由か

2021年5月3日(月)13時30分
青葉やまと
新型コロナウイルス

2万5000年前の東アジアでのパンデミックが遺伝子に耐性をもたらした? akinbostanci -iStock

<2万5000年前、東アジアでコロナウイルスが猛威を振るっていた可能性が明らかになった。現在流行中の新型コロナに対し、死者が少ない理由を説明できるという>

昨年からのパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスは、アメリカ、ブラジル、ヨーロッパ、インドなどで多数の犠牲者を出している。一方、私たちの住む日本や当初の震源地だった中国などを含め、東アジアの国々は死者が比較的少ない。

背景には社会制度や経済など多数の要因が絡むが、新たな研究によると、数万年前に東アジアでコロナウイルスが流行しており、私たちの遺伝子に耐性をもたらした可能性があるという。

今回の内容を発表したのは、米アリゾナ大学のデイヴィッド・エナード助教授ら研究チームだ。チームは既存の国際研究「1000ゲノムプロジェクト」で収集された遺伝情報を参照し、世界26の地域から2504人分のデータを得た。

エナード助教授たちはヒトのタンパク質のうち、コロナウイルスの感染過程に関与する420種のタンパク質に注目した。うち332種は、現在流行中のCOVID-19の感染過程にも共通して影響するものだ。

分析の結果、これら420のタンパク質すべての生成を顕著に増加させるようなゲノム(遺伝情報)の変異は、東アジアの人々にのみ生じていることが判明した。このことからチームは、過去に東アジアの人々がコロナウイルスまたはそれに酷似したウイルスと長期間闘っており、その過程で闘いに有利な進化を獲得したのではないかと推測している。

チームはさらに、このうちウイルスとの関連がとくに密接であると考えられる42種類のゲノム上の変異を追跡した。すると、今から2万5000年前から特定の変異が増加し始め、5000年前ごろまでに収束していたことが判明した。エナード助教授は、この間の2万年という長期間にわたり、東アジアの人々が古代のパンデミックに晒されていたと見ている。

ヒト側のゲノムからパンデミックの影響に迫る

今日では変異ウイルスが話題となっており、主にウイルス側のゲノムの変化が注目されている。一方、本研究はヒト側のゲノムの変異から古代の出来事を解き明かすものであり、その点でも興味深い研究と言えそうだ。

エナード助教授はライブ・サイエンス誌に対し、「ヒトの集団に影響を与えるウイルスは常に存在してきました。実のところウイルスは、ヒトのゲノムに自然選択が起きる主な要因の一つなのです」と語っている。

自然選択とは、生存に有利な特性が普及し、そうでないものが自然と淘汰される現象を指す。時とともに、人類の生存に有利なゲノム、すなわちウイルスに強いタンパク質を生成できるゲノムが広まるようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中