最新記事

イギリス

脱炭素「優等生」とされるイギリスの環境政策が、実は全く持続可能でない理由

NO CLIMATE LEADERSHIP

2021年4月30日(金)18時07分
ジェイミー・マクスウェル

しかもジョンソン政権は昨年3月、気候変動対策に逆行する炭素集約型のインフラ事業に巨額の税金を投入することも発表した。これには380億ドル近くに上る道路網の拡張・修繕計画も含まれる。国際環境NGO「フレンズ・オブ・ジ・アース」のイギリス支部は、これを交通量が膨らみ炭素排出量も増大させる「気候破壊的」な事業だと批判する。

保守党の化石燃料産業の将来像に対する姿勢も懸念されている。ジョンソン政権は、北海油田を経済の成長エンジンにするというイギリスの長年にわたる政策を公式に取りやめたことはない。

これはすなわち、自国のエネルギー企業にノルウェーなど近隣の産油国よりも低い税率を課してきたイギリスが、この先20~30年も北海での石油・ガス生産を支援し続ける可能性があるということだ。当然、その過程で大量のCO2が排出されることになる。

そうなってしまう公算は高い。昨年9月、イギリスの石油・ガス当局は新たに北海開発の承認を65社に与えた。ジョンソン政権は今年3月、将来のこうした承認には環境適合条件を課すと発表したが、その内実は曖昧なものだ。石油・ガス産業が排出削減目標を達成できるように、官民で220億ドルもの投資を行って支援するというのだ。

どっちつかずな保守党の姿勢

保守党の閣僚たちはこの金額について、化石燃料産業の脱炭素化を加速させる「画期的な取り組み」だと主張している。クワシ・クワーテング企業・エネルギー・産業戦略担当相はこの投資を、炭素経済からの「不可逆的な移行」と位置付け、「世界に向けてイギリスがクリーンエネルギーの国になるという明確なメッセージを発信した」と述べた。

しかし環境保護団体は、そうはみていない。NGOのオイル・チェンジ・インターナショナルのロマン・ユーアラレンは、フランスやデンマーク、ニュージーランドといった環境先進国に倣い、石油やガス採掘を将来的に完全に禁止すべきだと主張する。

保守党のこうしたどっちつかずの姿勢は、ジョンソン政権が19年7月に発足する前から始まっている。10~16年には一連の緊縮財政の一環として、同党のキャメロン首相が太陽光発電への助成金を大幅に削減し、設立されたばかりのクリーンエネルギーに投資するグリーンバンクをオーストラリアの投資銀行へ売却した。ジョンソンはこの流れを受け継いだ。今年3月には、各家庭に低炭素の暖房システム導入を促す20億ドルの補助金制度を廃止している。

気候変動対策の活動家たちに言わせれば、ジョンソンのこうした曖昧な環境政策と、温暖化をもたらしている産業に援助を続けている姿勢は、保守党の矛盾した気候変動対策の象徴だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 10
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中