最新記事

米黒人史

【やさしい解説】米南部で「復活」した人種隔離政策「ジム・クロウ法」とは

2021年4月8日(木)13時10分
リベラルアーツガイド
ジム・クロウ法 白人用と黒人用が別々の水飲み場

白人用と黒人用に分かれた水飲み場。ジムクロウ法の時代、徹底した人種隔離政策が採られた kickstand-IStock.


リベラルアーツガイドは、人文社会科学系学問の振興をめざし、修士以上の研究者有志が中心となって現代社会と関わりの深いトピックについてやさしく解説しているサイトです。

ジムクロウ法(Jim Crow laws)とは、1870年代から1960年代までアメリカ南部における、州・郡・市町村レベルでの人種隔離をする規則と条例です。「ジムクロウ」という言葉の語源は、顔を黒塗りした白人俳優のトーマス・ライスが演じたキャラクターにあります。

ジムクロウはアメリカ合衆国における人種主義制度の一つにすぎませんが、アメリカ史、強いては世界史を理解する上で不可欠な出来事です。

そこで、この記事では、

・「ジムクロウ」が登場する歴史とその政治的意味

・ジムクロウ法の内容・具体例・理由など

について詳しく説明していきます。

関心のあるところから読んでみてください。

<このキーワードに関連するニュース記事>
南部ジョージア州に人種隔離政策「ジム・クロウ法」が復活
黒人の投票を制限する「現代のジム・クロウ法」にコカ・コーラやMLBが反対表明


リベラルアーツガイドは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら

1章:ジムクロウとは

1章は「ジムクロウ」が誕生する社会的土壌とその政治的意味について詳しく解説します。ジムクロウ法の内容や具体例などに興味のある方は、2章から読み進めてください。

1-1: ジムクロウとミンストレルショー

まず冒頭で述べたように、

「ジムクロウ」という言葉は、顔を黒塗りした白人俳優のトーマス・ライスが演じたキャラクターから生まれたもの

です。

聞いたことがある方もいるかもしれませんが、ライスが演じたショーは「ミンストレルショー」といわれる19世紀半ばのアメリカで大流行した大衆芸能です。

具体的には、ミンストレルショーは以下のようなものです。

・顔を黒塗りにした演者が歌や踊りを、ステージ上で披露するもの

・米英戦争後に経済的な独立を果たしたアメリカでは都市化が進み、都市の新たな社会階層を顧客とした娯楽文化として生まれた

・1843年にニューヨークで公演が開催されると、翌年にはホワイトハウスに招かれるほどの爆発的な人気をみせた

ここで、大事なのはミンストレルショーの熱狂的な顧客となった都市部の労働者の存在です。これらの労働者は人種的優越感を保障する奴隷制とそれを推進する民主党を支持し、ミンストレルショーの第一顧客となっていました。

当時の民主党の政策は、主に以下のようなものに集約されます。

(1)奴隷制の支持(特に南部)

(2)領土拡張主義

(3)反ヨーロッパ的なナショナリズム

(4)経済的な独占の禁止

(5)白人至上主義

こうしてみると、劣悪な都市環境で生活する労働者がナショナリズムと奴隷制を推進する民主党を支持しながら、ミンストレルショーに熱狂していったことがわかると思います。

1-2: ジムクロウの誕生と発展

そして、ミンストレルショーで人気を博したのが「ジムクロウ」という<黒人奴隷の動きを誇張する歌と踊りをするキャラクターでした。ジムクロウというキャラクターには、次のような特徴がありました。

・白人俳優のトーマス・ライスが1832年にニューヨークやフィラデルフィアの公演を成功させたことをきっかけに、ヨーロッパ大陸でも人気を博した

・人気が増すにつれて、「ジャプ・クーン」「オールド・ダン・タッカー」などのキャラクターに細分化していった

加えて社会学者の大和田が指摘するように、この演劇はさまざまな芸や歌を加えながら、白人労働者を楽しませつつ、ステレオタイプ的な黒人らしさを演出していくという巧妙な仕掛けがありました。

ここで注意したいのは、白人が顔を黒塗りにする伝統はミンストレルショーに始まったものでなく、シェイクスピアの『オセロ』に代表されるように以前から存在したことです。

しかし、面白おかしく「黒人らしさ」を強調するミンストレルショーは、白人性を構築する政治性をもった演劇だったのです。

ちなみに、ミンストレルショーをはじめとするアメリカ社会の音楽史は『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』が詳しいです。

[アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで (講談社選書メチエ)
created by Rinker
講談社
¥2,145
(2021/04/06 18:14:09時点 Amazon調べ-詳細)
Kindle
Amazon

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中