最新記事

生態

脳の2割を失い女王に昇格 インドクワガタアリの驚くべき生態明らかに

2021年4月19日(月)19時00分
青葉やまと

女王アリが死亡した時点から、コロニーのメスの7割ほどが闘いに加わり、争いは最長で40日間ほど続く...... Credit...Clint Penick

<女王アリとして生殖能力を高めるために脳の一部を犠牲にする、ユニークなアリの生態が判明した......>

脳の大きさを変化させるめずらしい生態が今回明らかになったのは、インドクワガタアリと呼ばれる体長2.5センチほどの大型のアリだ。大きな眼とまるでクワガタのような大アゴが特徴的で、インドの湿潤な平野部に多く生息している。体長の4倍ほどの距離をジャンプして獲物を狩ることから、ジャンプアリの別名でも呼ばれる。

脳の衰退の前提として、まずはそのユニークな繁殖システムを把握しておきたい。多くのアリの種では、女王アリとなるべき個体は孵化直後から決まっている。ところがインドクワガタアリの場合、すべてのメスのアリにチャンスがある。コロニーの大多数のメスが、女王昇格の機会を虎視眈々と狙っている状態だ。

これまで女王だったアリが死亡した時点で、次期女王の座を賭け、メスたちは激しい争奪戦を繰り広げる。鋭いアゴを相手に突きつけて攻撃し合い、耐えた者だけが勝者となる。多い時でコロニーのメスの7割ほどが闘いに加わり、争いは最長で40日間ほど続く。

最終的に5体から10体ほどの個体が勝ち抜き、産卵能力を有する「ゲーマーゲート」と呼ばれる集団となる。こうして働きアリから生殖能力を持つ新たな女王が誕生することで、巣の全滅を防ぐしくみとして機能しているのだろう。アリの種類にもよるが、ナショナル・ジオグラフィック誌は一般的なアリのコロニーであれば、女王アリの死に伴って巣も滅びゆく運命にあると指摘している。

脳を衰退させて卵巣に投資

このようなめずらしい女王制を敷くインドクワガタアリだが、女王に昇格した個体にユニークな変化が起きることがこのほど判明した。脳の一部を失い、代わりに産卵能力を拡充するのだ。この不可思議な実態は、ジョージア州立ケネソー大学のクリント・ペニック生物学博士らチームによる研究で明らかになり、科学機関誌『英国王立協会紀要B:生物科学』上で4月14日に発表された。

働きアリからゲーマーゲートに昇格した個体は、その脳の容積を19%から25%ほど失う。縮小に伴って働きアリとしての特性を失い、毒液の生成が停止するほか、狩りにも出ず、侵入者の撃退もせず、繁殖行動に専念するようになる。

研究を主導したペニック博士はニューヨーク・タイムズ紙に対し、レーザーを使った画像計測技術により、脳のどの領域が縮小しているのかを割り出したと説明している。

最も衰退していたのは視葉と呼ばれる領域で、これは主に視覚情報を処理する部分だ。博士は理由について、光の届かない巣のなかで産卵に専念することになるため、視覚信号を処理する必要がなくなるためではないかと述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが攻撃停止で合意、トランプ氏が両国

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中