最新記事

犯罪

放任型は強盗・恐喝、溺愛型は強制性交・わいせつ......少年非行と親子関係の強い関連

2021年3月24日(水)13時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

ちなみに罪種ごとに見ると傾向は違っていて、10年間の殺人犯の少年479人の場合、168人(35.1%)が放任的な母親の下で育ったと判断されている。強制性交については全体の7.6%が溺愛で、全罪種でみた場合の2.1%よりかなり高い。<図1>は、横軸に溺愛、縦軸に放任の割合をとった座標上に、17の罪種を位置付けたグラフだ。ドットの大きさは、10年間の検挙人員の数を表す。

data210324-chart01.jpg

ドットの大きさを見ると、非侵入盗が際立って多い。非行の多くは万引きで、こうした軽微な罪種の場合、親の養育態度の歪みは少ない。だが、シリアス度の高い罪種はそうではない。図の上にあるのは放任の比率が高い放任型、右にあるのは溺愛型と言える。放任型には、強盗、恐喝、凶器準備集合、傷害、殺人など、アグレッシブな罪種が多い。強制性交やわいせつといった性犯罪は、溺愛型に括られる。

一般に放任的な親子関係の下で育った子どもは、攻撃的な人格になる傾向があるという(無藤隆ほか『発達心理学』岩波書店、1995年)。放任された子どもは欲求を充足してほしい場合、大声を出す、暴れるなど攻撃的なアクションをするので、それが人格形成に影を落とすことが考えられる。早いうちから自立的に振る舞うことが求められる中、他者といがみ合うことも多くなるだろう。

溺愛と性犯罪のつながりについては、欲求が過剰に充足される中で育った子どもは、突発的な性衝動の抑制がきかない、ということかもしれない。溺愛は歪んだ愛情で、愛情の欠如と表裏だ。愛情に飢えた子どもが性欲を抑えられない、という逆の経路も想起される。

一次集団の家庭においては、明確な意図はなくとも、日々の生活の親子関係そのものが人間形成の過程をなしている。子どもは日々の生活の大半を家庭で過ごすだけに、その影響力は甚大だ。だが今日では、親の養育態度に歪みが起きやすくなっていて、それが子どもの育ちに悪影響をもたらすことがある。良かれと思うことであっても「意図せざる結果」が生じ得ることに、親は絶えず自覚的でなければならない。

<資料:警察庁『犯罪統計書』

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国自動運転モメンタ、上場先をNYから香港へ変更検

ビジネス

東証がグロース市場の上場維持基準見直し、5年以内に

ビジネス

ニデック、有価証券報告書を提出 監査意見は不表明

ビジネス

セブン銀と伊藤忠が資本業務提携 ファミマにATM設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性を襲った突然の不調、抹茶に含まれる「危険な成分」とは?
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 4
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 7
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 8
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中