最新記事

ルポ新型コロナ 医療非崩壊

医療崩壊を食い止めた人々がいた──現場が教えるコロナ「第4波」の備え方

THE GOOD “MAKESHIFTS”

2021年3月17日(水)17時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

magSR210316_medical12.jpg

小林友恵は死者が続く現場の過酷さを語る HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

「限られた派遣期間で、経験も少ない自分に何ができるのだろうか」。そう思いながら、現場に入った小林は応援看護師として支援に入ることの意味を感じ取った。それまで夜勤は6階ならば看護師が3人で対応していた。ナースステーションを挟んで軽症患者と症状が重い患者のゾーンに分けられていた。夜勤は2対1で分かれて、軽症者全員に看護師1人で対応することになる。

業務負荷がかかるのも当然であり、1人加わり2対2で対応するだけでも負荷はかなり軽減される。徐々にレッドゾーンのエリアが小さくなり、陽性となったり濃厚接触者として勤務できていなかったりしていたスタッフが吉田病院に戻り始めた12月21日、小林は支援を終えた。

すんなりと現場に入れたのは、12月4日から支援活動を始めていたジャパンハートの看護師、宮田理香らの存在も大きかった。宮田は院内クラスターを、国内外の「災害支援」と同等だと語り、これまでも支援に入ってきた。民間の看護師として、レッドゾーン内で働いた経験値は国内トップレベルと言っていい。彼女はそれまでの知見を踏まえて、小林にきちんと防護をすれば感染は防げると伝えていた。宮田もまた、支援の前後でPCR検査を受けているが陽性になったことは一度もない。

2021年2月8日──、宮田は宮古島にいた。新型コロナ流行が続く島内の介護福祉施設で支援活動に当たっていた。どこの現場でも、彼女たちの支援は「郷に入っては郷に従え」を実践するところから始まる。自分たちはあくまで支援者であって、主役でも指導者でもないからだ。

magSR210316_medical9.jpg

クラスター対応を災害支援と同等と語るジャパンハートの宮田理香 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

彼女は院内クラスターで問題になるのは、周囲や社会の理解だと言った。レッドゾーンで働くのは危険である、周囲に感染させるかもしれないという漠然とした不安が医療者への差別や偏見を生み、支援や職場復帰を遅らせる。「その原因はですね......」と画面越しの宮田はやや語気を強めた。

「マスコミの報道も大きいと思います。PPEを着用して、適切な感染管理をしてから、レッドゾーンに入って看護をするスタッフは自衛隊や看護協会からの応援看護師にもいます。こうしたスタッフから市中感染が拡大した事例はどの程度あるのでしょうか。リスクがゼロだとは言いません。ですが、可能な限り低く抑える方法は蓄積されています」

1年間、現場に入り込んでいればこそ分かることは増えている。だが、メディアもそこには追い付いていない。派手なトピックや提言、数字にばかり飛び付き、地道な実践は日陰の存在になっていく......。

※ルポ後編はこちら:カギは「災害医療」 今、日本がコロナ医療体制を変える最後のチャンス

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

UBS証、日本の投資部門強化に新体制 昨年比1.5

ワールド

米グランドキャニオンの火災拡大、歴史的建造物など7

ワールド

エヌビディアCEO、中国のAIモデル称賛 「ワール

ワールド

トランプ氏、カタール首相と会談へ ガザ停戦巡り=ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 5
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 6
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 9
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中