最新記事

東日本大震災

震災後、元に戻すのではなく、将来を考える

After a Disaster, Look Ahead To What Can Be—Not Back To What Was

2021年3月11日(木)11時00分
村井嘉浩(宮城県知事)

*写真はイメージです kohei_hara / iStock photo

※本記事は、Newsweek(英語版)に3月2日に掲載された記事を翻訳したものです。
 

床が少し揺れ、窓が小さな音を立て、心臓の鼓動が早まったかと思うと、次に大きな揺れが襲ってきた。あの時のことが頭を横切った。先月、100名以上の負傷者を出したマグニチュード7.3の地震がここ東北の太平洋岸を襲った時のことだ。地震学者たちは、今回の地震を、10年前にこのエリアに甚大な被害を及ぼし、津波により15,899の死者と2,527人の行方不明者を出した大地震の余震であるとした。

今回は、幸いなことに、津波の襲来はなかった。しかしながら、これは10年前の出来事がまだ私たちの身近にあることを思い知らせるものとなった。

2011年3月11日の東日本大震災から10周年を迎え、さらに世界が未だパンデミックの最中にある現在、災害やその後の復興活動は人々の心の中で再び想起されるようになった。もちろん地震と病気は異なる危機ではあるものの、喪失やレジリエンス、そして破壊されたコミュニティの復興に必要なことなど、両者から得られる教訓には共通するものがある。

「build back better」を果たした宮城

2011年の震災を跨ぎ、宮城県の知事を務めるのも10年以上となるが、私自身もまだこの教訓を学ぶ途中にある。米国のバイデン大統領がCovid-19の文脈で唱えた「より良い復興(build back better)」 は、まさに宮城県も目指してきたものだ。ささやかながら、そして難局を乗り越える手助けをして下さった世界中の方々へ感謝の気持ちを込めて、復興について学んだいくつかのことを伝えたいと思う。

10年前、日本の東北地方の復興への希望は絶たれているように見えた。巨大な波が沿岸をさらい、そしてそのイメージがテレビで繰り返し放映される中、自分がどれほど無力に感じたかを決して忘れることはできない。宮城県だけでも10,000人以上が亡くなり、社会経済の基盤であるインフラのほとんどが損害を受けた。

しかし、災害から10年が経ち、宮城県は復活した。パンデミックが世界経済を混乱に陥れた昨年は別として、一昨年まで、宮城県の経済は震災以前の2010年に比べ、20パーセント以上も成長した。日本全体平均の2倍である。失われた多くの命に代えられるものなどないが、産業、環境、ヘルスケア、そして観光という観点において、宮城は震災よりも良い状態となったといえる。

災害からより良い復興をする(build back better)のために必要不可欠と思える3つことを説明したい。

まず一つ目に、長期的な視点を持つこと。危機を変革機会と呼ぶのはありきたりな言い方で、それは苦しむ人々にとっては冷淡に聞こえる。しかし、危機を機会と捉え未来を考えることも重要である。災害は時に私たちの社会経済の中で長く放置されてきた問題を顕在化させ、人々をその解決策に向かい結集させ、政治家たちに問題を正させ、それまで考えられなかったような未来を実現するチャンスを与える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド、すでにロシア産石油輸入を半減=米ホワイトハ

ワールド

マレーシアGDP、第3四半期速報は前年比+5.2%

ビジネス

英、財政バッファー拡大にはトレードオフ必要=財務相

ワールド

英MI5長官、AIの脅威に警鐘 プロパガンダや選挙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中