最新記事

日本社会

東京五輪は、日本が多様性を容認する社会へと変わるチャンス

2021年2月26日(金)17時00分
にしゃんた(羽衣国際大学教授、タレント)

森前会長の発言には海外からも非難の声が上がった Kim Kyung Hoon-REUTERS

<森前会長の「女性差別」発言は、日本社会全体が多様性の包摂について考え、行動する機会となった>

東京オリンピック・パラリンピック組織委・森喜朗会長の「女性は話が長い」発言が問題となり、辞任に追い込まれた。この「女害」とも取れる発言への批判が高まると、逆に森氏らに対して「男の方こそ話が長い」という、言わば「男害」や「老害」というニュアンスの反論が飛び交う展開となった。そして「女害」「男害」「老害」論争は、内輪喧嘩にはとどまらなかった。

今回、「こんな発言で失脚しちゃうの? バッシングを受けるの?」と驚いたのは、男性だけではなく、女性の中にもいたはずだ。ブラックフェイスやホワイトウォッシュ問題と同様に、国内では問題と認識されづらい問題が、海外、主に欧米からの指摘で顕在化するケースだ。今回のような性別や人種にまつわるものは最たる例である。

女性蔑視発言に対して世界中からの非難の声が上がり、IOC(国際オリンピック委員会)からも非難を浴びると、関係者は問題の収拾を図って必死で火消しにかかった。最終的には五輪の聖火に因んで名前を付けられた、言わばオリンピックの申し子のような橋本聖子氏が、火中ではぜる寸前の栗を拾うことになった。

正直、女性差別に対して女性をもってきたところが、安直とも、油を以て油煙を落とすような荒技に見えなくもないが、それまでどんよりしていた空気が少し変わったように感じなくもない。その点、最高のタイミングで、オリンピックにとどまらず日本社会全体にとって多様性の包摂について考え、行動する機会を与えてくれたことが、森前会長の最大の功績かもしれない。

オリンピックの本質に立ち返ろう。オリンピックとは「平和の祭典」であり、「平和」と「多様性の受容」とは同義だ。平和があるところには多様性の容認があり、多様性の容認があるところは平和である。そして「平和」の反対軸には「戦争」がある。「戦争」はいわば違いの受け入れの失敗よって生じる。さらには戦争が進行するに従って、敵対者に対してのみならず、身内の違いまでも徐々に受け入れられなくなる。障がい者、けが人、老人、女性、子どもや同性愛者や平和主義者など戦いにはそぐわない者は邪魔扱いされる。

戦争とは「殺すか殺されるか」

生まれ育ったスリランカの、言語問題を発端とする25年に及ぶ内戦の経験から身をもって知った。戦争とは「殺すか殺されるか」である。「殺す」とは、究極の「人権侵害」であり、殺すか殺されるかの状況を生きる者には、その真逆の「容認」の感情は抱けない。

平和は世の中の最も尊いテーマであり、多様性や人権について考え実践する機会を定期的に提供するオリンピックやパラリンピックが果たす役割は大きい。オリンピックには紛争をスポーツに置き換えるという原点はもちろん、オリンピック休戦に見られるように争いを止めた歴史もある。さらにはオリンピックと対になって発展したパラリンピックは、元々は負傷兵士のリハビリテーションや社会復帰の一環として始められた。

それだけではない。オリンピックは回を重ねるごとに多様性を高め、包摂社会の重要性を提示し続けてきた。近代オリンピックが始まった1896年のアテネ大会に参加した国の数はわずか14カ国で参加者は241人、女性は0人だった。1964年の東京オリンピックでは、参加国・地域は93、参加者は5151人、そのうち女性は13%の678人だった。前回大会の2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、参加国・地域は205で、参加者数は1万1303人、女性比率は45%と過去最高を記録した。

また、リオ大会で参加選手から自身がLGBTであると公表した選手が50人となった。これは、2008年の北京オリンピックの10人、2012年ロンドン25人をはるかに上回る過去最高の数字だ。もちろん、冬季オリンピックもパラリンピックも同様に開催の回数を重ねるごとに「多様性」の包摂が進んでいる。

ニュース速報

ワールド

アングル:ミャンマー製衣料品、コロナとクーデターで

ビジネス

アングル:米金融業界、富裕層増税ならニューヨーク離

ワールド

米最高裁判事の増員検討へ、バイデン氏が大統領令で委

ワールド

中国、アリババに27.5億ドルの罰金 独禁法違反で

MAGAZINE

特集:岐路のビットコイン

2021年4月13日号(4/ 6発売)

大企業や金融大手が次々と参入を開始。膨らみ続けるバブルははじけるのか、それとも?

人気ランキング

  • 1

    緑豊かな森林が枯死する「ゴーストフォレスト」が米国で広がっている

  • 2

    「頭の切れる人」とそれほどでもない人の決定的な差 いきなり考えても決してうまくいかない理由

  • 3

    「日本のお金で人殺しをさせないで!」ミャンマー国軍支援があぶり出した「平和国家」の血の匂い

  • 4

    ハリー&メーガンは? 黒い服にタイツ...フィリップ殿…

  • 5

    今年のアカデミー賞候補はハズレなし! 一方で過去…

  • 6

    北米からシカの狂牛病=狂鹿病が、世界に広がる......

  • 7

    メーガン妃のまことしやかな被害者談に惑わされるな

  • 8

    洪水でクモ大量出現、世界で最も危険な殺人グモも:…

  • 9

    「よい誤解」だから許される? 日本の「ハーフ観」…

  • 10

    硬貨大のブラックホールが地球を破壊する

  • 1

    太平洋上空の雲で史上最低気温、マイナス111度が観測される

  • 2

    カミカゼ・ドローンで戦況は一変 米軍「最強」の座も危うい

  • 3

    硬貨大のブラックホールが地球を破壊する

  • 4

    アマゾンに慣れきった私たちに、スエズ運河の座礁事…

  • 5

    緑豊かな森林が枯死する「ゴーストフォレスト」が米…

  • 6

    観測されない「何か」が、太陽系に最も近いヒアデス…

  • 7

    北米からシカの狂牛病=狂鹿病が、世界に広がる......

  • 8

    洪水でクモ大量出現、世界で最も危険な殺人グモも:…

  • 9

    ビットコイン:規制は厳しくなる、クレジットカード…

  • 10

    こんなに動いていた! 10億年のプレートの移動が40秒…

  • 1

    太平洋上空の雲で史上最低気温、マイナス111度が観測される

  • 2

    観測されない「何か」が、太陽系に最も近いヒアデス星団を破壊した

  • 3

    国際宇宙ステーションで新種の微生物が発見される

  • 4

    「夜中に甘いものが食べたい!」 欲望に駆られたとき…

  • 5

    30代男性が急速に「オジサン化」するのはなぜ? やり…

  • 6

    EVはもうすぐ時代遅れに? 「エンジンのまま完全カー…

  • 7

    親指の爪ほどの貝がインフラを破壊する 侵略的外来…

  • 8

    孤独を好み、孤独に強い......日本人は「孤独耐性」…

  • 9

    ブッダの言葉に学ぶ「攻撃的にディスってくる相手」…

  • 10

    カミカゼ・ドローンで戦況は一変 米軍「最強」の座…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

STORIES ARCHIVE

  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月