インド、世界最大のコロナワクチン接種作戦 デマやゲリラの懸念も
アストラゼネカ開発のワクチンは、生産量ベースでは世界最大級のワクチン製造事業者であるセラム・インスティテュート・オブ・インディアによりインド西部のプネ市で生産され、1月12日、約4万800回分が民間航空機によりオリッサ州の州都に空輸された。
インドは承認されたワクチン2種類、1650万回分を国内の州・地域に送付し、各州・地域では、そこから多数の運転手とインフラを利用してワクチンを配布していく。この体制は既存のワクチン接種計画のために用意されたものだが、今回のパンデミックを受けてさらに強化された。
オリッサ州では配布開始が1月13日と遅れた。ワクチン集配拠点では、政府職員が大きな冷蔵装置からワクチンの入った容器を引き出し、慎重に数え、氷のパックを詰めた断熱ボックスに詰めていく。これで最長3日間、摂氏2─8度に維持できる。
ワクチンは、保健当局に所属するベテラン運転手ラル・ポリジャさんに託される。ポリジャさんはこのワクチン集配拠点まで徹夜で配送バンを運転してきた。これからコラプットまでの帰路500キロを走り、ワクチンを運ばなければならない。護衛として私服の武装警官が同乗する。
「少し疲れた」とポリジャさんは言う。交通渋滞のために行程は数時間遅れ、夜遅くになっていったん休憩し、一服しているところだ。
牛の群れ、がれき、濃霧や急なカーブを何とか切り抜け、疲労と闘いながら、ポリジャさんは3日間で24時間近く運転し、集荷したワクチンをコラプットの街まで送り届けた。
1月15日、コラプットの中心的なワクチン集積所に集まった医療従事者らが、地域内5カ所の接種拠点向けに、ワクチンの数を計算し、少量ずつ梱包し、車に積み込んだ。5カ所のうちの1つが、約30キロ離れたマザルパット地域医療センターだ。
正午。複数の拠点にワクチンを送り届ける白い小型のバンが、砂塵を巻き上げながら狭い田舎道を走り始めた。ここでもやはり、武装警察官が同乗する。
ワクチンの箱が下ろされると、マザルパットの医療従事者の1人が仲間に言った。「さあ、お待ちかねのワクチンだ」
先が見えないロードマップ
インドは、7─8月までに約3億人にワクチンを接種する計画を示している。
今月初めに展開された第1フェーズでは、ジャニさんのような医療従事者1000万人が対象となった。次は2000万人のエッセンシャル・ワーカーたち。新型コロナウイルスに対して脆弱とみられる2億7000万人がこれに続く。
だがその先には明確なロードマップはない。インド政府は、ワクチン接種を望む、あるいは必要とするすべての国民が接種を受けられるだろうと話している。
当局者によれば、コラプットでは担当チームが数ヶ月かけて地域でのワクチン接種計画を練り上げたという。
コラプットの保健医療部門のトップであるマカランダ・ベウラ医師によれば、この地域のかなりの部分ではインターネットを利用できないため、担当チームではネット接続環境のよいワクチン接種拠点を選び、予行演習を繰り返したという。
ジャニさんが暮らすペンダジャン村のようにモバイル接続も不安定な場所では、医療従事者を集めたミーティングが行われてワクチン接種計画が伝達され、管理責任者が、接種予定として登録された人のもとを訪問した。