最新記事

医療

アメリカ中西部にコロナ感染の大波 医療現場は崩壊の危機

2020年11月30日(月)11時38分

僻地の病院は患者が最も少ない時期ですらスタッフが不足している。患者が増えると期間限定で働く「トラベルナース」を採用するが、今では確保が難しくなっている。

ノースダコタ州のコモンスピリット・ヘルスの看護師長、マリー・ヘランド氏は11カ所のクリティカルアクセス病院向けにトラベルナースを採用しようとしたが、全て大病院に持って行かれてしまったという。

ハッチンソン地域医療センターの看護部門の責任者、アマンダ・フレット氏は事務作業に退いて長いが、現場でシフトに入り始めた。常に肉体的、精神的に疲れ、患者が近しい友人や同僚だといっそうつらい思いをするという。

同センターの看護師ヘーゼル氏は、元ボーリング仲間を患者として世話することになった。「優しくて、いつも座っておしゃべりしていた」彼は今、人工呼吸器につながれている。「1、2週間中に厳しい決断をすることになるでしょう」とヘーゼル氏は言う。

医療従事者は限界

医療従事者によると、新型コロナを軽視する態度が当局者やコミュニティー、患者の間ですら広がっており、いら立ちを感じるという。

ウィスコンシン州のSSMヘルスのアリソン・シュワルツ医師によると、患者の1人は新型コロナの症状が悪化しても恐ろしい病気だと絶対に認めなかった。この患者が亡くなったときに家族は、新型コロナが原因だということを受け入れるのを拒んだ。新型コロナで死亡することはないと信じていたためだという。

中西部では一部の州や地方自治体がマスクの着用やソーシャルディスタンス(社会的距離)の義務付けに消極的だ。

ネブラスカ州のピート・リケッツ知事(共和党)は地方自治体によるマスク着用の義務化を認めないとまで述べた。知事は13日の記者会見で「マスクには効果があるが、ひとつの手段にすぎない」と述べ、人と距離を取ったり大規模な集会を避けたりといった対策にも目を向けるよう促した。

サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事はマスク着用の義務化を拒否し、公衆の場での集会や事業活動への制限も課していない。こうした事柄は「個人の責任」によるという立場だ。

医師らは、こうした行動を変えようとしても無力感に襲われると話す。SSMヘルスのシュワルツ医師は「誰もが人生を歩み続けている」が、「われわれの方は溺れかけているような感じだ」と話した。

(Nick Brown記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナが改めて浮き彫りにした「毛皮工場」の存在
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力



ニューズウィーク日本版 関税の歴史学
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月27日号(5月20日発売)は「関税の歴史学」特集。アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応――歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンと中国、貿易・投資拡大で合意 緊密な意思

ワールド

トランプ氏、「ゴールデン・ドーム」の詳細発表 費用

ワールド

訪米中のベトナム商工相、ロッキードやスペースXと協

ワールド

米司法省、クオモ前NY州知事を捜査か 市長選の有力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到した理由とは?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 7
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 8
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 9
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 10
    小売最大手ウォルマートの「関税値上げ」表明にトラ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中