最新記事

ドイツ

「模範的な優等生国家」は幻想、ドイツで格差が拡大したのはなぜか

ALL EYES ON GERMANY

2020年11月12日(木)07時00分
ヘルムート・アンハイア(独ヘルティ・スクール・オブ・ガバナンス教授)

メルケル長期政権の下、ドイツは落日を迎えようとしている(首都ベルリンの国会議事堂) BERND VON JUTRCZENKA-PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

<外からは理想的な国に見えるドイツも、内側から見ると大きく異なる。日本と同様、第2次大戦後に奇跡的な復興を遂げたEUの優等生国家ドイツが抱える脆弱性とは>

ドイツは今年7月、EU議長国に就任した。輪番制で半年間の任期とはいえ、加盟国が27カ国に膨らんだEUで13年ぶりに担う重責だ。

特に今は新型コロナウイルスの拡大と、その対策に伴う経済活動の停滞で、EUは第2次大戦以来の大不況の瀬戸際にある。それだけに、EU随一の経済大国ドイツのリーダーシップに期待がかかる。

ヨーロッパだけではない。ドイツは新型コロナ危機への対応、健全な政治運営、強力な公衆衛生システム、そして優れた危機管理態勢ゆえに、世界中の国から模範と見なされるようになってきた。

アンゲラ・メルケル首相の現実主義的な政治手腕は、ナルシシズムに満ちたドナルド・トランプ米大統領の言動や、無責任極まりないボリス・ジョンソン英首相の政策とは対照的だ。

6月には、メルケルのキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の連立政権が、1300億ユーロ規模の景気対策をまとめた。中小企業や子供がいる世帯への支援のほか、水素エネルギーや量子コンピューターなど先進技術への投資もカバーする野心的な対策だ。

対外的にも、これまで反対してきたコロナ禍救済策であるEU復興基金の設立に同意するなど、柔軟性を示してきた。

だが、外からは理想的な国に見えるドイツも、内側から見ると大きく異なるようだ。最近刊行された4冊の本は、ドイツ国内にはその経済や民主主義体制の先行きを悲観する見方があることを教えてくれる。

なかには、第2次大戦後の奇跡的な経済成長にさえ疑問を投げ掛ける声もある。

1950年代、西ドイツのルートビヒ・エアハルト経済相(後の首相)は、「全ての国民に繁栄を!」というスローガンの下、「社会的市場経済」を推し進めた。それは西ドイツが大戦の荒廃から立ち上がり、世界でも指折りの経済大国へと急速な成長を遂げる基礎となった──。

少なくとも、それがドイツで好まれる説明だ。

しかし「経済の奇跡」などおとぎ話にすぎないと、左派系新聞ターゲスツァイトゥングの記者ウルリック・ヘルマンは、著書『ドイツ──経済の幻想』で主張する。戦後ドイツの繁栄は、エアハルトが財政と金融の安定に注力し、中央銀行の独立や輸出競争力の強化に努めたおかげではなく、アメリカの支援と戦後の活発な需要環境、そして伝統的な協調主義(コーポラティズム)のおかげだというのだ。

【関連記事】
「ドイツは謝罪したから和解できた」という日本人の勘違い

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

MUFG、未上場インフラ向けデットファンド設立へ 

ワールド

スリランカが別のイラン船救助活動、軍艦攻撃「米は後

ビジネス

ECB、イラン紛争でインフレ期待変化なら政策スタン

ワールド

中国5カ年計画、石油生産2億トン目標を維持 備蓄拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中