最新記事

北欧

世界がスウェーデンに抱く「モデル国家」という虚像

WHY SWEDEN IS NOT A MODEL

2020年11月5日(木)18時30分
アンドルー・ブラウン(ジャーナリスト)

magf201105_sweden2.jpg

スウェーデンのコロナ対策を立案した疫学者のテグネル CLAUDIO BRESCIANI-TT NEWS AGENCY-REUTERS

この変化に外部の世界が気付くまでに何十年もかかった。スウェーデンを「より良い未来への海図」と見なす外国人は、この国の現実にはあまり関心を持たなかった。しかし、パンデミックは変化のプロセスを一気に加速させた。

それをはっきりと示したのが、ボリス・ジョンソン英首相がスウェーデンの疫学者アンデシュ・テグネルに新型コロナ対策を相談したというニュースだ。これでこの国のイメージが一変した。マスク着用義務化やロックダウンを拒否するスウェーデンは今、リバタリアンを熱狂させている。

現実よりあるべき姿が大事

こうした措置がスウェーデン国内で猛烈に批判されていることは、国外ではあまり報道されていない。4月には2000人以上のさまざまな分野の科学者(関連分野の権威や現役の研究者を含む)が、この戦略を酷評する公開書簡に署名している。

言うまでもなく、国内外のリバタリアンの熱狂は、この国ではパンデミックの初期段階で非常に多くの死者を出し、輸出依存型経済に多大な損害を与えた事実を無視している。そして実際にテグネルの主張をよく調べると、抽象的な自由より長引く経済不振による健康への影響をはるかに心配していることが分かる。

この手放しの熱狂は、スウェーデン崇拝の外国人やいいかげんな報道の責任とばかりは言えない。スウェーデンの政治家も、事態は計画どおりに進んでいるという見方を強調する。彼らもまた、自国の現実より「海図」をはるかに信頼している。

スウェーデンが極めて寛容な移民政策を取っていた数十年間を見れば明らかだ。この政策は全ての主要政党から支持されていた。反対したのはスウェーデン民主党のみ。同党は1980年代に貼られたファシストのレッテルを長いこと払拭できずにいた右派民族主義政党だ。

2010年までには、豊かで快適な都市部を除くスウェーデンの地方は移民を歓迎していないことが明らかになった。地方の有権者に話を聞くと、多くが移民には問題があると答えた。移民はスウェーデン流のライフスタイルに関するコンセンサスに従わず、スウェーデン人としてどう振る舞うべきかを理解しているとは思えない、と。

筆者は2010年の総選挙前に、当時のニャムコ・サブニ統合融和・男女平等相(ブルンジ出身)に、世論調査の予測どおりスウェーデン民主党が議会で議席を獲得したらどうする計画なのかを尋ねた。彼女は、そんなことは考えられないと答えただけだった。あり得ない話なので、それに備えた計画もなかったのだ。

結局、スウェーデン民主党は初の議席獲得に必要な得票率を50%近く上回る5.7%の支持を集めた。他の全ての政党は彼らを完全に無視したが、4年後の総選挙では得票率12.9%を記録した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタが通期業績を上方修正、販売など堅調 米関税の

ビジネス

アングル:米アマゾン、オープンAIとの新規契約でク

ワールド

ウォール街、マムダニ氏の「アフォーダビリティ」警戒

ビジネス

訂正マネタリーベース、国債買入減額で18年ぶり減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中