最新記事

生物

想像と逆だった......アンモナイトのような殻を持つ深海イカが初めて撮影される

2020年11月3日(火)12時00分
松岡由希子

頭を下にした姿勢で泳いでいると考えられてきたが...... Schmidt Ocean/YouTube

<アンモナイトのような殻をもつトグロコウイカの生態はほとんど解明されていなかったが、このほどオーストラリア近海で世界で初めて泳いでいる姿が撮影された...... >

トグロコウイカとは、熱帯海域の深海に生息するイカの一種で、体内に螺旋形の殻を持つのが特徴だ。自然環境で生息している様子はこれまでほとんど確認されていないが、死後に軟体部が分解されて残ったアンモナイトのような殻が世界各地の海岸に漂着している。

頭を下にした姿勢で泳いでいると考えられてきた

オーストラリア北東岸のサンゴ礁地帯「グレートバリアリーフ」で海底の地形図を作成している米シュミット海洋研究所は、2020年10月26日、遠隔操作型無人潜水機(ROV)「スー・バスチアン」を用い、深さ850〜860メートル地点で、7センチの円筒形のトグロコウイカが泳ぐ様子を撮影することに世界で初めて成功した。


トグロコウイカは、トグロコウイカ目で唯一の現生種であり、すでに近縁種は絶滅している。生態や分布域など、その多くはいまだ解明されていない。今回撮影されたトグロコウイカの映像は、これまでの謎を解く手がかりが示されている点で注目されている。

matuoka1103b.jpg

左は側面から見た殻。右は腹面から見た殻 wikimedia


そのひとつが、トグロコウイカが頭と触手を上にし、垂直の姿勢で泳いでいる点だ。トグロコウイカは頭と反対側に殻があり、殻の内部の液体を出し入れして、浮力を制御している。殻が浮力を持つため、これまで、トグロコウイカは頭を下にした姿勢で泳いでいると考えられてきたが、実際に深海で泳ぐ様子は正反対であった。

Spirula_spirula.jpg

螺旋形の殻の近くには発光器があり、それを下に向ける

米スミソニアン自然史博物館の動物学者マイケル・ベッキオーネ博士は、これまでの推定には問題があった」と指摘。螺旋形の殻の近くには発光器があり、トグロコウイカはこの発光器で深海に降り注ぐ光と同等の輝度に調整して自身の影を消し、下から海面を見上げる捕食者を撹乱している。つまり、発光器を下に向けるためには頭を上にする必要があるというわけだ。

また、この映像では、トグロコウイカが墨を吐き出す様子も確認できる。トグロコウイカには墨を生成する機能が備わっているものの、これまでは、他の深海生物と同様に、その機能が退化していると考えられてきた。ベッキオーネ博士は「この映像は、トグロコウイカは墨を生成して吐き出すことができ、防御のためにこの機能を利用することを示している」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中