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アメリカ大統領選 中国工作秘録

【調査報道】中国の「米大統領選」工作活動を暴く

THE NEW CHINA SYNDROME

2020年11月5日(木)07時05分
ディディ・カーステンタトロー(ジャーナリスト)

中国によるソーシャルメディアへの投稿は、特定の陣営に露骨に加担するものではなかった。警官による黒人殺しの問題では、人権派の主張も保守派の主張も等しく拡散させていた。狙いは特定の主張を支持することではなく、アメリカ社会の亀裂を深めることにあったからだ。

「4年前のロシアと同じだと思ったら大間違いだ」とガーノーは指摘する。「中国は攪乱はするが、破壊はしない」。つまり正面切ってアメリカと敵対するのではなく、アメリカ社会に入り込んで、自分たちの味方を増やそうとしている。

一方、米情報当局者によれば、中国がどちらの候補を当選者として好ましいと思っているかは明らかだ。「予測困難なトランプの落選を望んでいる」と、NCSCのエバニナは今年8月に語っている。

中国が民主党を好む別の理由もある。自国が世界の中で躍進し、摩擦の少なかったバラク・オバマ前政権時代のスタッフが多いバイデン陣営はくみしやすい、と映るからだ。

中国から見て、トランプ政権で最も邪魔なのは国務長官のマイク・ポンペオとその政策顧問のマイルズ・ユーだ。どちらも政権中枢にあって反中国の急先鋒となっている。ポンペオは最近も、アメリカ社会のあちこちで繰り広げられている中国側の工作とその意図について、鋭い警鐘を鳴らしている。

最強の敵アメリカには慎重

今年2月にワシントンで開かれた全国州知事会の会合では、ポンペオは中国共産党が州や地方都市のレベルでも親中派を見つけ出し、手なずけようとしていると語った。

このとき彼は、中国の某機関が州知事の「親中度」を採点した報告書を作成していると明かした。本誌はその報告書のコピーを入手したが、そこでは全米50州の知事のうち17人が「親中派」、14人が「中立」、6人が「強硬派」に分類されていた。

そうした評価の妥当性は別として「中国があなた方とその周辺に触手を伸ばしていることを忘れるな」。ポンペオはそう警告している。ちなみに、その半年後には中国共産党を率いる習近平(シー・チンピン)が、有力な経済学者らを集めた会合の席上、今後はアメリカの政治家や財界人の「協力」を取り付ける活動を一段と強化すると語っていた。

州知事会の会合で、ポンペオは州レベルで見られる工作の具体例を挙げていた。例えば、テキサス州ヒューストンの中国総領事館に駐在する外交官は昨年、ミシシッピ州のフィル・ブライアント知事(当時)に手紙を書き、知事が台湾を訪問すれば同州に対する中国企業の投資案件の一部を取り消すと脅していた。

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