最新記事

米中関係

トランプが大統領選の結果にごねれば、笑うのは中国だ

TRUMP’S ELECTION GIFT TO CHINA?

2020年11月2日(月)18時15分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

THOMAS PETER-REUTERS

<トランプは中国に素晴らしい贈り物をしてきた。米大統領選が激しい政争と終わりのない訴訟合戦につながれば、中国へのさらなる贈り物となるだろう>

ドナルド・トランプは少なくとも中国にだけは、素晴らしい贈り物をしてきた。

コロナ禍に対する彼のぶざまな政策のおかげで、中国の初期対応が模範的にさえ見えた。トランプの「アメリカ第一」主義の外交政策は同盟諸国をアメリカから遠ざけ、反中国の広範な同盟を築きにくくした。

もちろんトランプは、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に手痛い打撃をもたらした。米中貿易戦争で両国の商業的関係は傷つき、トランプによる台湾への支持は中国政府首脳を怒らせた。

それでもトランプは、今回の大統領選で習に対してさらに大きな贈り物を与えたように思える。それはアメリカの選挙制度を揺るがせたことだ。

大統領選が近づくなかで、トランプは選挙結果をそのまま受け入れない可能性を繰り返し明言してきた。郵便投票の正当性を傷つけようとも試みた。エイミー・コニー・バレットを判事に加えたことで保守色が強まった最高裁を利用すれば、選挙結果に介入して再選を実現できるとも示唆した。

投票日直前の世論調査では、民主党候補のバイデン前副大統領が明らかに優勢だった。だが仮にトランプが一般投票では敗れても、実際の勝敗を決める選挙人の数に関しては激戦州の結果が当日のうちに明らかにならない可能性も取り沙汰された。

選挙後には悪夢のようなシナリオがいくつも考えられる。どれもアメリカの民主主義を傷つけ、中国共産党を喜ばせるものだ。

大統領選が激しい政争と終わりのない訴訟合戦につながれば、中国に格好のプロパガンダの材料を与える。中国指導層はアメリカの選挙後の混乱を、国家の末期的症状を示すものだと言い立てるだろう。

トランプが有権者の審判を突っぱねれば、中国のような独裁国家で暮らす人々にとって民主主義の魅力は地に落ちる。武装した極右集団が投票日に有権者を威嚇して死者が出るような事態になれば、中国国営メディアはその終末的光景を喜々として伝えるはずだ。

仮にトランプが複雑な選挙制度や連邦最高裁の判断を使って勝利しても、中国はさらに恩恵にあずかれそうだ。2期目のトランプ政権は中国への締め付けを強めるだろうが、それでも中国にうまみはある。

まず、トランプが当選しても一般投票で負けていれば、米有権者の約半数は彼を正統な大統領と認めない。さらに彼の勝利にアフリカ系有権者などをターゲットにした投票抑制策や、共和党が支配する政府機関による激戦州での工作が関わっていたと分かれば、政治的な内戦状態に陥りかねない。

【話題の記事】
「ドイツは謝罪したから和解できた」という日本人の勘違い
黒人プラスサイズのヌードを「ポルノ」としてインスタグラムが削除

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石油大手2社への制裁でロシアは既に減収=米財務省

ビジネス

中国COMAC、ドバイ航空ショーでC919を展示飛

ワールド

カナダ議会、カーニー政権初の予算案審議入りへ 動議

ワールド

過度な依存はリスクと小野田経済安保相、中国の渡航自
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中