最新記事

アメリカ大統領選 中国工作秘録

【調査報道】中国の「米大統領選」工作活動を暴く

THE NEW CHINA SYNDROME

2020年11月5日(木)07時05分
ディディ・カーステンタトロー(ジャーナリスト)

ILLUSTRATION BY ALEX FINE FOR NEWSWEEK

<トランプvsバイデンの選挙に先立つ世論操作は氷山の一角。「中国人はSNSが下手で文章も説得力に欠ける」が、既に600団体がアメリカ社会に浸透していることが分かった。4年前のロシアとの違い、中国共産党の真の狙いは――。本誌「アメリカ大統領選 中国工作秘録」特集より>

熱波にもコロナ禍にも負けず、民主・共和両党の選挙マシンが秋の米大統領選に向けてギアを上げていたこの夏、ローラ・ダニエルズとジェシー・ヤング、エリン・ブランの女性3人組も休むことなくフェイスブックやツイッターに書き込みを続け、アメリカ社会の現状を熱く論じていた。政府のコロナ対応のまずさや人種差別を批判し、大統領のスキャンダル報道には「よくないね」を付けてせっせと転送する。
20201110issue_cover200.jpg
しかし彼女たちの投稿には不自然な点があった。別な人の投稿とそっくりな文章があったし、具体的な出来事には触れず、頭からアメリカとその民主的な仕組みをこき下ろす書き込みも目立った。

英語の使い方にも不自然なところがあった。決まり切った表現や単語を変な具合にミックスした文章も、少なからず見受けられた。例えばジェシーのツイートには「黒人が奴隷だったことは一度もないぞ! 頭を高く立ち上げろ!」という意味不明なものもあった。

もっと奇妙なこともあった。彼女たちの書き込みには、ときどき漢字が交じっていたのだ。不可解だが、別の無数のアカウントからの書き込みにも見られる現象だった。

賢明な読者なら、もうお気付きだろう。この女性3人組、実は大量の迷惑メール送信やネット荒らしに使われる悪質なソフトウエアだった。操っていたのは、中国共産党に連なる複数の組織。そして目的は、大統領選を前にアメリカ社会の亀裂を深めることだった。

アメリカの諜報機関と密接に連携するオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の国際サイバー政策センターは今夏、ツイッターやフェイスブックへの同様の投稿を分析し、「アメリカの立場を弱くするという中国の政治的目標に沿って、中国語圏の個人や組織が行った多面的な不正活動」の一環と結論付けた。

こうした活動は11月3日の大統領選投票日が迫るなか活発に続けられている。直近の6週間にドナルド・トランプ、ジョー・バイデン両陣営の関係者に対するサイバー攻撃の試みで中国系組織の関与が疑われるものが複数あったと、グーグルもマイクロソフトも発表している。

だが前回2016年の大統領選でトランプ陣営に加担したロシアと異なり、中国発の選挙介入工作は特定の陣営に肩入れしているようには見えない。

アメリカの国家防諜安全保障センター(NCSC)を率いるウィリアム・エバニナに言わせれば、むしろ中国側の目的は「アメリカ国内の政策形成に影響力を及ぼし、中国の利益に反する政治家に圧力をかけ、中国批判をそらす」ことにあるようだ。

つまり、今回のような選挙介入は中国の情報当局による広範かつ多彩な工作活動の一部にすぎないということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中