最新記事

日本人が知らない ワクチン戦争

日本人が知らない新型コロナワクチン争奪戦──ゼロから分かるその種類、メカニズム、研究開発最前線

AN UNPRECEDENTED VACCINE RACE

2020年10月20日(火)17時00分
國井 修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

その設計図としてDNAやmRNAを使ったり、無害な別のウイルスの中に設計図を忍び込ませてそれを運び屋(ベクター)としてヒトの体内に入れたり、昆虫や植物、哺乳動物の細胞などで「敵の一部」(特に、ヒトの細胞に侵入する際に鍵の役割をする新型コロナの表面にあるスパイクの抗原タンパク質)や「敵に似たもの」(ウイルス様粒子)を作ってヒトに投与するなどの違いがある。

ワクチンはいつできるのか

一般に、生ワクチンは「生きた敵そのもの」を使うので獲得する免疫力が強いと言われ、これまでもBCG、ポリオ、麻疹、風疹などで多くが開発・使用されてきた。欠点としては、ウイルスを弱毒化してもそれによって感染が引き起こされるリスクがゼロではないことだ。

不活化ワクチンも、生きていなくとも「敵そのもの」なので、生ワクチンには劣るが免疫を獲得でき、これまでインフルエンザや日本脳炎などで実績もある。

ただし、両方のワクチンとも製造するには培養を含めて時間や手間がかかり、例えばインフルエンザワクチンでは鶏の受精卵を10~12日温めてからウイルスを注射し、2日後に増殖したウイルスを採集する。卵1個で大人1人分しか採れないため、大規模な製造施設も必要だ。

これに対し、バイオテクノロジーを駆使すれば、病原体自体は接種しないので感染リスクがない上、遺伝子情報を得た後は開発への着手が早く、迅速かつ大量に製造できるという利点がある。欠点は研究開発の実績が乏しく、有効性や安全性に不透明な点が多いこと。ウイルスベクターワクチンも、無毒であっても他のウイルスを運び屋として使うので、それ自体に免疫ができて、2度目以降の投与で効果が下がることがある。

いずれのワクチンも、効果を上げるために複数回接種したり、アジュバントと呼ばれる強化剤を添加するなどの工夫もなされる。有効性と安全性、年齢や性差による違いなどもしっかり把握する必要があるため、これまでワクチンの研究開発には10年以上の年月がかけられてきた。

では、新型コロナに有効なワクチンはいつできるのだろうか?

WHO(世界保健機関)の最新情報(10月15日)によると世界で研究開発中のワクチン候補は198あり、うち42が臨床試験中で、最終の第3相試験に入ったものが10候補ある。

過去のデータからは、基礎研究や非臨床試験から臨床試験に行き着くのが1割弱、臨床試験の最終段階をクリアするのはその2~3割とされている。現在の進捗状況では、今年末までに2候補の治験結果が判明し、うまくすれば来年初めまでに承認・接種開始となるワクチンが登場する可能性もある。特にヨーロッパでの「第1号」は英アストラゼネカらが開発中の「AZD1222」と予想されている。

magSR201020_chart2.jpg

世界で進むワクチン開発競争 本誌2020年10月27日号22ページより


しかし最終的に、効果が強く長く持続するワクチンが開発されない可能性もある。HIVでは過去30年以上で250以上の治験が行われたが、市場に出たワクチンは1つもない。また開発に成功しても、その予防効果が100%で持続する、とは限らない。50%程度、短期持続でも承認を受ける可能性がある。

実は治験中ながら、実質的に使用されているワクチンもある。中国のシノファームなどが開発するもので、軍人、さらに医療、運輸、食品市場などの労働者が既に接種した。また、ロシア政府は世界初の人工衛星にちなんで名付けられたワクチン候補「スプートニクV」を8月上旬、臨床試験の第2段階の終了時に世界初で認可し、9月から4万人のボランティアが接種している。

ニュース速報

ビジネス

日銀、今年度成長率見通し引き上げの公算 政策は維持

ビジネス

焦点:GM快走、巻き返すトヨタ 中国EV戦争が本格

ワールド

ASEAN、24日首脳会議でミャンマー情勢協議 一

ワールド

インド、コロナ死者が過去最多 多くの地域で都市封鎖

MAGAZINE

特集:歴史に学ぶ 感染症の終わり方

2021年4月27日号(4/20発売)

ペストやスペイン風邪など人類が過去に直面した疫病はどのような経過を経て収束したのか

人気ランキング

  • 1

    「お金が貯まらない家庭の玄関先でよく見かける」1億円貯まる人は置かない『あるもの』とは

  • 2

    ビットコインバブルは2021年ほぼ間違いなく崩壊する

  • 3

    脳の2割を失い女王に昇格 インドクワガタアリの驚くべき生態明らかに

  • 4

    史上初、ヒトとサルのハイブリッドの初期胚を培養 …

  • 5

    ビットコインが定着するか崩壊するか、運命が決まる…

  • 6

    誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に

  • 7

    菅首相が「国際公約」にしてしまった東京五輪の現実…

  • 8

    ワクチン接種後はマスクなしでOK?──米CDCが指針を発表

  • 9

    イバンカ・トランプ、3カ月間の「沈黙」を破るツイー…

  • 10

    ビットコインが、既に失敗した「賢くない」投資であ…

  • 1

    「お金が貯まらない家庭の玄関先でよく見かける」1億円貯まる人は置かない『あるもの』とは

  • 2

    ビットコインバブルは2021年ほぼ間違いなく崩壊する

  • 3

    青色の天然着色料が発見される

  • 4

    脳の2割を失い女王に昇格 インドクワガタアリの驚く…

  • 5

    ビットコインが定着するか崩壊するか、運命が決まる…

  • 6

    ミャンマー市民が頼るのは、迫害してきたはずの少数…

  • 7

    世界の銃の半分を所有するアメリカ人、お気に入りの…

  • 8

    ビットコインが、既に失敗した「賢くない」投資であ…

  • 9

    日本だけじゃない...「デジタル後進国」のお粗末過ぎ…

  • 10

    女子中学生がバスの扉に足を挟まれ、30秒間も道路を…

  • 1

    太平洋上空の雲で史上最低気温、マイナス111度が観測される

  • 2

    「お金が貯まらない家庭の玄関先でよく見かける」1億円貯まる人は置かない『あるもの』とは

  • 3

    観測されない「何か」が、太陽系に最も近いヒアデス星団を破壊した

  • 4

    「夜中に甘いものが食べたい!」 欲望に駆られたとき…

  • 5

    EVはもうすぐ時代遅れに? 「エンジンのまま完全カー…

  • 6

    30代男性が急速に「オジサン化」するのはなぜ? やり…

  • 7

    孤独を好み、孤独に強い......日本人は「孤独耐性」…

  • 8

    ブッダの言葉に学ぶ「攻撃的にディスってくる相手」…

  • 9

    カミカゼ・ドローンで戦況は一変 米軍「最強」の座…

  • 10

    硬貨大のブラックホールが地球を破壊する

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

STORIES ARCHIVE

  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月