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「習近平vs.李克強の権力闘争」という夢物語_その2

2020年9月1日(火)18時31分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

なぜ李克強の重慶視察の方が習近平の安徽省視察の報道よりも多いかというと、おそらくだが、重慶のいわゆる「水害」は突発的なものではなく、長年にわたって下流の洪水被害を減らすために、意図的に溜め込んで、計画的に開放しているからという要素が影響しているかもしれない。実は、重慶にとっては100年来の高い水位になってはいるが、しかし重慶はそもそも標高が高いため、この程度の高い水位でも大したことはなく、庶民が余裕で物見遊山をしているほどなのである。

8月21日付けの「今日頭条(今日のヘッドライン)」は「重慶洪水の真相と観光化した様子」を報道している。

この記事の内容を全て説明するとなると、もう一本、別のコラムを書かなければならないほど長文になるので、リンク先の庶民の写真をご覧になると、重慶の「洪水」が「一種のお祭り」のような盛り上がりを見せ、物見遊山客で溢れかえっている様子が見て取れるだろう。

記事の中にある年代別の水位図を見ると、今回の水位は結構高いという感覚ではあるものの、しかし、下図のようになっているため、実際に被災する庶民はほとんどいないのが現状だ。下図にある「城」というのは「町」とか「都市」という意味である。全員が「高地」に居住していることがわかる。

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日本の国益に適うのか?

習近平と李克強が権力闘争をしていると騒げば、日本の一部の国民は喜ぶかもしれない。しかし事実ではないことを書いて日本国民を喜ばせることに、いかなる価値があるというのだろう?

そういった権力闘争論者の記事を読む読者が増えるという利己的効果はあるかもしれないが、事実を知らない日本国民を騙し、「なんだ、中国はそんな権力闘争ばかりしているんなら、どうせ大したことはないよ」と日本国民を安心させ、中国が一致団結して強国として邁進していくことを可能ならしめてしまう。それを阻止しようとしているアメリカの努力を削ぎ、米中間のパワーバランスを中国に有利な方向に持って行くことに貢献するだけではないのだろうか?

事実ならばいいが、これは権力闘争論者の「夢物語」でしかない。

中国の脅威を軽視させ、国益を損ねるだけであることに注目しなければならない。

その罪は重い。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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