最新記事

米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算

運命の大統領選、投票後のアメリカを待つカオス──両陣営の勝利宣言で全米は大混乱に

THE COMING ELECTION NIGHTMARE

2020年9月25日(金)16時45分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)

では有権者が投票所にたどり着きさえすれば、その人の票が確実に選挙結果に反映されるのか。保証はないとスタークは言う。「状況は2016年から改善されていない。むしろ悪化していると言えるかもしれない」

ほぼ全ての投票機に弱点があることが分かっている。不正操作やシステムへの不正侵入、整備不良、ひいては停電や配線ミスによる単純な不具合などの問題が起こり得る。

スタークによれば、全ての投票を確実に集計する方法は1つしかない。それは、投票者自身に紙の投票用紙に記入させるというものだ。この方法であれば、集計不正が指摘された場合に再確認しやすい。「選挙の投票でテクノロジーに頼れば頼るほど、システムの脆弱性は大きくなる」と、スタークは言う。

現在、29の州と首都ワシントンは、選挙の全部または一部を投票機に頼っている。しかも多くの州と郡は、デジタル投票機への投資をもっと増やす意向らしい。

しかしカリフォルニア州ロサンゼルス郡は、3月の大統領選予備選に間に合わせるために約3億ドルを投じて新しい投票機を導入したが、ソフトウエアの問題により、投票所で3時間以上の待ち時間が生じてしまった(同郡は後に、この遅延は投票機の問題ではなく、有権者の入場を受け付ける電子システムの問題が原因だったと発表した。スタークはこれに疑問を呈している)。

一方、サイバーセキュリティーの専門家は、ロシア、中国、北朝鮮には電子投票システムを破壊または混乱させる能力があると警告する。投票の集計作業は誤りや「サイバー不正」だらけだという疑念が広がるだけでも、負けた側が選挙結果の正当性に疑義を唱える根拠になり得る。

連邦選挙法の曖昧さと不備が11月の選挙で最大のリスクになる事態も考えられると、選挙法の専門家であるアマースト大学(マサチューセッツ州)のローレンス・ダグラス教授(法学)は指摘する。共和党が多数を占める主要州の議会はトランプが有権者の一般投票で負けていても、最終的に大統領を選ぶ選挙人の票をトランプ支持票にすることができるというのだ。

ダグラスによれば、このごまかしは郵便投票の集計が数日、あるいは数週間遅れることを利用するものだ。州議会は選挙当日の夜か一時的にトランプがリードした時点で、集計作業の終了を宣言する。未集計の票を足せばバイデンが逆転するかどうかにかかわらずだ。その上で、州議会は同州の選挙人票をトランプへの票として連邦議会に提出する。

ミシガン州のように州知事の所属政党と議会の多数派が異なる州では、民主党の知事は対抗策として、最終集計に基づく選挙人票を連邦議会に提出できる。そうなると、この仮定のシナリオではバイデンが勝利することになる。

「疑問の残る選挙結果を州が提出するのを止める法律はない」とダグラスは言う。「いったん連邦議会に提出されれば、最高裁も介入できない」

この場合、連邦議会の上下両院が問題を解決しなければならないが、難航が予想される。憲法にはこの問題に関する規定がなく、上院と下院は多数派を握る党が違うため、反対の結論を出す可能性が高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中