最新記事

米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算

運命の大統領選、投票後のアメリカを待つカオス──両陣営の勝利宣言で全米は大混乱に

THE COMING ELECTION NIGHTMARE

2020年9月25日(金)16時45分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)

ほかにも偽情報アカウントは山ほどありそうだが、フェイスブックは対策には及び腰だ。

フェイスブック上には、バイデンの認知症疑惑や汚職疑惑の「証拠」なるものや、バイデンをはじめ民主党の候補者が「児童売春組織」や「世界征服計画」に関わっているとする荒唐無稽な陰謀論があふれている。フェイスブックは「規制を免れようとトランプ政権にこびている」と、民主党のナンシー・ペロシ下院議長は苦言を呈した。

投票率を下げたいトランプ陣営

トランプの支持基盤をたきつける偽情報の発信は、安直なカネ儲けの手段ともなる。政治絡みの偽情報サイトで荒稼ぎする連中は「複数のサイトを立ち上げ、政治的に発火しやすい虚偽情報をアップし、そこにトラフィックを誘導して、クリック単価の広告で稼ぐ」と、元CIA分析官のシンディー・オーティスは言う。

今回の選挙戦では前回以上に偽情報が有権者の判断に大きな影響を与えると、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール(経営大学院)の研究者パイナー・イルディリムはみる。コロナ禍の下での選挙戦ではソーシャルメディアなどの情報を参考に候補者を選ぶ人が増えるからだ。

「選挙の年には普通、戸別訪問や対話集会などで有権者一人一人に話をし、支持をつかむ方法が取られるが、今はそれができない。やむなくソーシャルメディア頼みになり、誤情報があふれることになる」

フェイスブックが政治的な偽情報の拡散源となっていることは間違いない。偽情報を放置する同社の姿勢には抗議の声が高まり、広告ボイコット運動が起きて、500社以上の企業が一時的に広告出稿を停止した。それでも有効な対策を取ろうとしないのは、マーク・ザッカーバーグCEOがトランプと「密約」を交わしたためだとの臆測も流れている。

一方、ツイッターは偽情報の拡散を防ぐため警告ラベルの表示や悪質なアカウントの閉鎖などの対策を取り始めた。保守派はこの動きを「検閲」だと非難している。

どちらの陣営であれ敗北を喫したら、ソーシャルメディアが敵陣営に肩入れしたと主張するだろう。そうなればますます支持者たちは選挙結果を受け入れようとはせず、敵陣営の「不正行為」に対する怒りが暴発し、路上での騒乱に発展しかねない。

既に予備選の段階でさまざまな混乱が起きている。民主党予備選の初戦となったアイオワ州の党員集会では、集計アプリのシステム障害で結果発表が遅れ、ジョージア、カリフォルニア、テキサスの各州では投票所の数が減らされたため、開設された投票所には長蛇の列ができた。ウィスコンシン、ニュージャージー州でも郵便投票の到着の遅れなどのトラブルが相次いだ。

11月の本選では多くの州で予備選の3倍もの有権者が投票所に詰め掛けるとみられ、列に並んで長時間待つことになりそうだ。そうした場では、新型コロナの感染が一気に広がりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米連邦地裁、H─1Bビザ巡る商工会議所の訴え退ける

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡 ガス漏れか

ビジネス

午前の日経平均は続伸も値幅限定、クリスマス休暇で手

ビジネス

歳出最大122.3兆円で最終調整、新規国債は29.
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中