最新記事

米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算

運命の大統領選、投票後のアメリカを待つカオス──両陣営の勝利宣言で全米は大混乱に

THE COMING ELECTION NIGHTMARE

2020年9月25日(金)16時45分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)

magSR200925_US2.jpg

民主党の下院議員候補に選ばれたボーマンだが集計は手間取った LUCAS JACKSON-REUTERS

過去の選挙では、どれほど対立が激化しても選挙プロセスそのものは尊重されてきた。2000年の大統領選でジョージ・W・ブッシュの勝利が確定したのは、フロリダ州の票の再集計をめぐる訴訟で連邦最高裁判所が事実上ブッシュの勝訴となる判決を下したからではない。民主党候補のアル・ゴアがアメリカの民主主義制度を尊重して潔く敗北を認めたからだ。

有権者を惑わす大量の偽情報

もしも敗者が開票結果を受け入れなかったらどうなるか。ただでさえ大統領が選挙の規範や法律を無視するような態度を取るのは由々しき事態だが、今は状況が悪過ぎる。

中国、ロシア、北朝鮮が投票システムをハッキングする懸念もあるし、オバマが警告するように低所得層やマイノリティーの投票を妨げるような動きも目につく。新型コロナの猛威は一向に収まらず、感染を恐れて人々が投票所に行くのをためらうことも予想される。西部を中心に人種差別に対する抗議デモも再び激化している。

さらに、今回の大統領選では選挙人制度が機能不全を起こし、いつまでも結果が確定せず、アメリカ全体が憲法上の危機に陥る懸念もある。

こうした要因から、今回の選挙では大多数の有権者が正当と認める勝者が生まれない確率が極めて高い。

分断と対立が激化するなかで実施された大統領選が両陣営のなじり合いに終わったら、人々はどう反応するだろう。今のアメリカに渦巻く怒りや疑念、不安を見ると、11月3日以降何日も混乱が続くのはほぼ確実だ。ここ数カ月、感染防止のための規制にしびれを切らし、路上や公共の場で自動小銃を振りかざし(時には発砲する)市民の姿を全米各地で目にするようになった。

「選挙後36時間以内に(民主党候補のジョー・)バイデンとトランプの双方が勝利宣言をしたら、どうなるか」と、クリント・ワッツ元FBI特別捜査官は言う。「私が最も懸念するのは、自動小銃を持った連中が(通りに)現れる事態だ。本格的な暴動とまではいかなくとも、あっという間に大混乱になる」

そうなればトランプには、連邦軍を出動させる口実ができる。

サイバー攻撃に詳しいワッツによると、せめてもの救いは2016年の大統領選で民主党の足を引っ張ったロシアが今回はさほど介入に乗り気でないように見えること。ロシアが余計な工作をしなくとも、トランプと共和党が人々の不安と怒りをあおるフェイクニュースを大量にばらまいているからだ。

2016年の選挙では偽情報が結果を大きく左右した。主としてそのために、民主党支持者をはじめ多くのアメリカ人は前回の大統領選が100%公正な選挙だったとは考えていない。

今回の選挙でも偽情報が猛威を振るうだろう。フェイスブックは7月上旬、トランプ支持の偽情報を流していた100のアカウントを閉鎖。いずれも偽証罪などで有罪になったトランプの盟友ロジャー・ストーンと関連があるとみられるものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中