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菅義偉、政権の大番頭から頂点へ 問われる宰相の力量

2020年9月4日(金)12時23分

地元で高校まで過ごし、卒業後就職のために上京、町工場で働いた。学費を稼いで法政大学に進み、いったんは民間企業に就職したが、26歳の時に横浜選出の国会議員、小此木彦三郎氏の秘書となる。その後、横浜市議を経て、1996年に47歳で国会議員に当選した。自ら「地縁も血縁もないところからのまさにゼロからのスタート」だったと語る。

高校時代の同級生、川井寛氏(71)は、菅氏が政治の世界でここまで昇り詰めるとは思わなかったと語る。秋田で観光ガイドをしている川井氏にとって、菅氏は「本当に寡黙な少年」という印象だった。「同じクラスにいても、あいついたかな、と。知られざる存在という感じだった」と川井氏は言う。

政治の道に進んだあとも、菅氏は強烈な個性を周囲に示したり、自分の野心や野望をあからさまに口にすることはまずなかった。自民党の元政調会長で古くから安倍氏と親しい亀井静香氏(83)は、そんな菅氏を「国家観がなく、歴史観もない。秋田県から出稼ぎで東京に出てきた庶民派だ」と評する。

「自分を舞台の俳優だと思え」

昨年の日経新聞とのインタビューによると、菅氏は毎朝5時に起床、新聞をチェックしてから腹筋運動を100回こなし、頭をすっきりさせるために40分のウォーキングをする。日々のスケジュールは多忙を極めるが、仕事は細部にこだわり、妥協を許さない。

横浜市議の遊佐大輔氏(39)が菅氏に会ったのは2004年、民間企業の営業職で働いていた時だった。その後、遊佐氏は菅氏の秘書となった。菅氏から徹底して言われた言葉は「自分を舞台の俳優だと思え」。遊佐氏は「そのときに自分がどのポジションにいるのか客観的に見なさいと(いう教え)」だった、と振り返る。しかし、菅氏は総理大臣になることは全く考えていなかっただろうと遊佐氏は言う。

安倍晋三氏との出会い

菅氏の政治家人生で大きな転機となったのは、安倍氏との出会いだ。接点は2000年の初め、北朝鮮船の日本寄港を阻止する法律の制定を働きかけていたときだった。

2006年の第1次安倍内閣で菅氏は総務相となった。大仕事のひとつは「ふるさと納税」制度の創設だ。 総務省で副大臣として菅氏に仕えた大野松茂氏によると、この制度の創設は、前例のない税制の導入をいやがる官僚の激しい抵抗にあった。

大野氏は菅氏の人柄について「人の話をよく聞く人です。お酒は一滴も飲みません。飲む会合にはちゃんとお付き合いするし、真面目に話を聞いている」。飲まなくても宴会の幹事を引き受け、人並み以上に気をつかう人だったという。

前述の篠原氏も菅氏のこうした気遣いについて「そういうのが彼の政治の原点だから。今のような状況になって人間関係重視、それが菅さんのいちばんの武器になっている」と指摘した。

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