最新記事

教育

批判的思考が低い日本の教師に、批判的思考を育む授業はできない

2020年9月2日(水)17時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

「批判的思考」は日本の学習指導要領では重視されているが SIphotography/iStock.

<大学4年間の教職課程で、社会問題への関心や批判的な精神は薄められてしまう>

8月4日の日経新聞ウェブ版に「教員養成、現場の創造性高めよ 批判的な見方が必要」という記事が出ている。教員志望の学生を追跡してみると、学年が上がるにつれて現場と直結した実践的なことを学ぶ学生の比率が高まるが、その一方で社会問題や政治・選挙への関心は薄まるという(紅林伸幸・常葉大学教授)。

大学4年間の教職課程において、教員に必要な力量を身に付ける、凝った言い回しをすると「教職的社会化」を遂げるのだが、それは従順に飼い慣らされる過程とも言えるかもしれない。

最近の教職課程では、授業の技術に加え、トラブルへの対処や保護者との付き合い方など、いわゆる「ハウツー」に重きを置いていると聞く。早い段階から実習の機会も用意されるが、そのことが「未熟な自分と経験豊かな優れた教師」という枠組みを形成し、学生は物言わぬ従順な教師へと仕向けられるという(紅林教授)。

自由奔放な思想や行動が許される学生の時期までもが、今の教職課程では学校現場の色に染められてしまう。風変わりなことや批判めいたことを言うと嫌われるので、社会に対する関心、批判精神が薄れるというのは道理だ。

牙を抜かれた教員たち

こういう学生が採用試験を突破し、学校現場にやってきたらどうなるか。教育委員会や管理職にすれば扱いやすい存在だろうが、現場に新風を吹き込む創造性など持たないだろうし、学習指導要領で重視されている「批判的思考」を育む授業も期待できない。

それはデータで裏付けられる。OECD(経済協力開発機構)の国際教員調査「TALIS 2018」では、授業において批判的思考を促すことがどれほどあるか、と問うている(対象は中学校教員)。肯定の回答(「A lot」「Quite a bit」)の比率を拾うと、日本は24.4%でしかない。対してアメリカでは82.3%にもなる。

調査対象の46カ国・地域を高い順に並べると<表1>のようになる。

data200902-chart01.jpg

日本の数値は最も低く、すぐ上のノルウェーとの差も大きい。ダントツのワーストだ。比率が低いことに加え、国際標準からも外れていることに注意しなければならない。

「批判的思考とは何か」を深く考えてしまったのかもしれないが、ここまで他国と違うとは驚きだ。従順に飼い慣らされ、批判的思考の牙を抜かれた教員が、批判的思考を育む授業をするのは難しい。教員が考えないのに、子どもが考えるはずがない。以前、日本の若者の創造性や冒険志向は世界最下位というデータを出したが(「世界一チャレンジしない日本の20代」本誌、2015年12月1日)、学校でどういう授業を受けてきたかの違いかもしれない。

<関連記事:日本は事実上の「学生ローン」を貸与型の「奨学金」と呼ぶのをやめるべき
<関連記事:政府が教育にカネを出さない日本に未来はあるか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国不動産投資、1─8月は前年比12.9%減

ビジネス

中国8月指標、鉱工業生産・小売売上高が減速 予想も

ワールド

米国務副長官、韓国人労働者の移民捜査で遺憾の意表明

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も前月比-0.3% 需要低迷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 8
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中