最新記事

日本政治

菅首相の肝いりデジタル戦略を待ち構える2つの「罠」

2020年9月25日(金)10時57分

震災復興のように、日本のデジタル化についても、その方向性に反対する声は少ないだろう。世界的に見て遅れているデジタル化の促進は、コロナ後の世界で必要な戦略だ。しかし、反対しにくい総論賛成な政策には、よく見れば関係なさそうな予算を紛れ込ませやすい。

東日本大震災の発生から来年で10年が経つ。2012年に誕生した「復興庁」は2031年まで設置される予定だ。2020年度概算予算額は1.4兆円。過去最少だが、依然として少ない額ではない。

長期政権と構造改革

こうした課題に対して、今のところ菅首相はうまく対処してるようにみえると、ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏は評価する。

「デジタル庁は廃止時期を明記した時限組織とされる可能性がある。時限措置であれば、省庁も受け入れやすい。そして新しい仕組みや制度は、一度導入してしまえば、恒久化はそう難しくないものだ」と矢嶋氏は指摘する。

医療関係者などから強い抵抗のあったオンライン診療は恒久化の可能性が出てきている。田村憲久厚生労働相は17日の会見で、初診患者のオンライン診療の利用を認める時限的措置の恒久化について、検討を進める考えを明らかにした。

デジタル化は、既存の業務をデジタルに置き換えることであり、仕事を減らすという一面を持つ。新しい雇用を生み出す一方で「痛み」も生じやすい。

安倍晋三前政権は、金融政策や財政政策を大胆に実施したが、第3の矢である構造改革は十分進まなかったと批判されることが多い。しかし、「構造改革による『痛み』を先送りしてきたからこそ長期政権を築くことができた」(外資系証券エコノミスト)との評価もある。

長期政権でなければ、構造改革を進めることは難しい。しかし、構造改革により反発が強まりすぎれば、長期政権は危うくなる。これまでの政権を悩ませてきたこの「二兎」を、菅新政権がいかに追うか、金融マーケットも注目している。


伊賀大記(編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッポン
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・なぜ日本は「昭和」のままなのか 遅すぎた菅義偉首相の「デジタル化」大号令
・ビルボードHOT100首位獲得したBTS、韓国政府は兵役免除させるのか


ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ヤム・ブランズ、ピザハットの売却検討 競争激化で

ワールド

EU、中国と希土類供給巡り協議 一般輸出許可の可能

ワールド

台風25号がフィリピン上陸、46人死亡 救助の軍用

ワールド

メキシコ大統領、米軍の国内派遣「起こらない」 麻薬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中