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比連続自爆テロ、爆弾製造の容疑者は脱出か 実行犯はイスラムの教えを逆手に利用?

2020年8月31日(月)19時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

さらなる自爆テロへの警戒強化

フィリピン捜査当局によると、今回の連続自爆テロは2件とも女性テロリストが実行犯との見方が強まっている。「アブ・サヤフ」などのイスラム教テロ組織が自爆テロ、それも女性の自爆テロ犯による犯行を画策する背景には「イスラム教徒の女性の身体検索、ボディチェックがイスラムの教義上難しい」という宗教上の課題がある、と指摘する。

イスラム教徒は犬を嫌悪するため、爆弾探知や麻薬探知のために特別な訓練を受けた犬が身体や荷物を接近して嗅ぎまわることすら「教義上好ましくない」とされている。ましてイスラム教徒の女性の体を男性が手で触れて身体検査をしたり、服装を脱がせたりまくり上げたりすることを命じることは「拒否されてもやむを得ない」と解釈されているのだ。

こうした宗教上の理由を逆手にとってイスラム教徒の女性を自爆テロ犯に仕立てるやり方は「姑息で卑怯な方法」と部外者には映る。しかしイスラム教組織の中では、いずれも身内が自爆テロや軍との交戦で死亡した「テロ未亡人」が選抜されていることから、単に「女性」であることに加えて「報復」や「聖戦」というイスラム教的な重い意味づけを与えられたうえでの納得した犯行とされている。

こうした事態を受けてルソン島のマニラ首都圏でも24日の事件以後、コロナウイルスの感染予防のための防疫地区の警戒に加えて、テロへの特別警戒も始まるなどフィリピン国内にはテロ警戒ムードが広がっている。

事件が発生したスールー州全域に関して陸軍のソベハナ司令官は「地域限定の戒厳令を発令するべきだ」との考えを明らかにし、大統領府によるとドゥテルテ大統領も「スールー州への戒厳令」を前向きに検討していることを明らかにしている。

爆弾専門家3人で潜伏行動、テロ準備か

すでにホロ島を脱出したとみられているサワジャン容疑者と行動を共にしている2人の爆弾専門家はNICAなどによるといずれもインドネシア人で、アンディ・バソ容疑者(推定年齢17~25歳)と女性のレスキ・ファンタシャ容疑者(同17~22歳)とみられている。2人は夫婦で、レスキ容疑者は2019年1月のホロ市内教会で自爆したインドネシア人夫妻の娘という。

この3人は一応爆弾製造専門家とはされているが、レスキ容疑者はそうした自爆テロ犯の娘という立場から「次の自爆テロ実行予備軍」との見方も強く、テロが実行される前にいかなる手段を講じてもその居場所を特定して拘束、逮捕あるいは殺害することが「さらなる自爆テロを未然に防ぐ最善策」として、必死の捜索が続いているという。

このため戒厳令布告も視野に入れた徹底的な対テロ作戦が、マレーシアにも通じるスールー海やインドネシア領海につながるセレベス海、さらにサンボアンガ半島があるミンダナオ島など各地において厳戒態勢の中で現在も続いている。一般市民も不審者、不審物などの情報提供に協力を要請されるなどフィリピン南部地域ではテロへの警戒感が一層高まっているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


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