最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

コロナでグローバル化は衰退しないが、より困難な時代に突入する(細谷雄一)

2020年8月25日(火)11時40分
細谷雄一(慶應義塾大学教授、国際政治学者)

つまりは、既にここ10年ほどの間、大国間、とりわけ米中間の地政学的な対立と、国際協調や法の支配を擁護するようなリベラルな国際秩序の後退が進行しており、そして反グローバリズム運動に支えられて国民国家の復権が語られていたのである。

ナショナリズムがグローバル化を侵食し、国際協調はより困難となっていた。15年の欧州難民危機、そして同時期におけるテロ事件の多発は、国境を越える人の移動に対する抵抗感と嫌悪感を醸成した。

また16年6月のイギリスにおける国民投票の結果としてのEU離脱の決定、そして同年11月のアメリカ大統領選挙でのドナルド・トランプ候補の勝利は、国家間の「壁」を構築することを米英の国民が賛美する様子を示すものであった。

そのような潮流の中でコロナ禍が広がったことで、米中間の相互不信が一気に増幅され、国際協調はさらに退潮し、国際組織はよりいっそう無力となった。すると、海洋国家としてのアメリカと、大陸国家としての中国がユーラシア大陸の外縁部で対峙するような地政学が復活し、国民国家が復権して、国境や領土がより大きな意味を持つようになったのだ。世界史の逆流は既に始まっていたのである。

そもそも多面的で複合的

それでは、国境がより大きな意味を持ち、グローバル化は衰退していくのか。そうはならないであろう。重要なことは、グローバル化とはそもそも多面的で複合的であることだ。

マンフレッド・スティーガーはその著書『新版 グローバリゼーション』(岩波書店)の「第2版はしがき」において、「グローバリゼーションが何がしかの単一の主題の枠組みには限定しがたいものであって、一連の多次元的な社会的過程として考察するのがもっとも適切である」と主張している。「多次元的な社会的過程」ということは、グローバル化が進む次元もあれば、後退する次元もあるということだ。

コロナ禍の下の世界においては、国境を越えた人の移動は停滞して従来のような往来が期待できない。とはいえデジタル化のより一層の促進と、5Gの導入によるインターネットの高速化により、情報はより多く、より早く、国境を越えて移動することになるであろう。それはまた、オンラインで人と人がつながり、情報や危機感を共有して、世界が「一つ」になることを意味する。

【関連記事】ポスト・コロナの世界経済はこうなる──著名エコノミスト9人が語る

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

世界のLNG需要、今後10年で50%増加=豪ウッド

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時初の4万5000円 米ハ

ワールド

EU、気候変動対策の新目標で期限内合意見えず 暫定

ワールド

仏新首相、フィッチの格下げで険しさ増す政策運営 歳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中