最新記事

感染症対策

ワクチンめぐり富裕国が仁義なき争奪戦 コロナ対策で逆効果に?

2020年8月9日(日)13時29分

新型コロナウイルス感染症のワクチンに関して、この世界は仁義なき戦いの様相を呈している。写真はワクチンのイメージ画像。4月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

新型コロナウイルス感染症のワクチンに関して、この世界は仁義なき戦いの様相を呈している。

ワクチンを大量一括購入し世界中に公平に供給する計画を練っている国際的な支援団体は、この状況に憂慮を深めている。一部の富裕国が自国民のために有望なワクチン候補を何百万回分も確保しようと、先走って製薬企業と契約を締結しているのを見て困惑しているのだ。

複数の専門家によれば、米国、英国、欧州連合(EU)がファイザー、ビオンテック<22UAy.F>、アストラゼネカ、モデルナなどと結んだものを含め、こうした契約はグローバルなワクチン配布計画を台無しにしつつある、という。

全世界で迅速かつ公正にワクチンを利用可能にする計画「COVAX」を共同で推進する「GAVIアライアンス」のセス・バークレー事務局長は、「誰もが製薬企業と個別に契約を結ぶというのは、最善の状況をもたらす道ではない」と語る。

ファイザーは今週、EU及び複数のEU加盟国とのあいだで、同社が開発中のワクチンの供給契約について交渉を続けていると発表した。

また最新の動きとして、英国は29日、グラクソ・スミスクラインとサノフィが開発中のワクチンの優先供給を受ける合意を結んだと発表した。

国際医療NGO「国境なき医師団」によれば、こうした動きは「富裕国がワクチンを買い占めようとするグローバルな競争」をさらに過熱させ、「ワクチン・ナショナリズムという危険なトレンド」を加速させるものだ。

懸念されているのは、今回のパンデミック(世界的な大流行)でも前回同様のワクチン供給・配分が再現されるのではないかという点だ。前回、つまり2009─10年の新型インフルエンザ(H1N1ウイルス)流行においては、富裕国が入手可能なワクチンを買い占めたため、当初は貧困国にまったく回ってこなかった。

このときは、結果としてH1N1による症状がさほど深刻ではなくパンデミックが最終的に終息したため、ワクチン配分の不公平さが感染者数・死者数に与えた影響は限定的だった。

だが新型コロナウイルス感染症の脅威ははるかに大きく、世界人口のかなりの部分が脆弱なまま取り残されることは、当事者にとって危険であるだけでなく、パンデミックを長引かせ、それによって引き起こされる損害を拡大することになる、と医療専門家は指摘する。

「まさに我々が危惧していることを一部の国が進めている恐れがある。つまり、自分の身は自分で守れ、という態度だ」と語るのは、元米国際開発庁長官で、現在は貧困と予防可能な疾病の撲滅をめざすNPO「ワン・キャンペーン」代表のゲイル・スミス氏。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ワールド

小泉防衛相、ヘグセス米国防長官と12日に電話会談

ワールド

米FRB、26年に2回利下げ見通し 大手金融機関が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中