最新記事

BOOKS

死刑に賛成する弁護士もいる、終身刑ではいけない理由を彼らはこう言う

2020年8月5日(水)16時35分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<冤罪のおそれがある、生きて償うべき......。死刑制度に反対する人たちはこのような意見を述べるが、果たしてそれは正しいのか。日弁連の見解に反対する弁護士たちが声を上げた>

弁護士には多少なりとも、「死刑制度に反対している」というイメージがあるように思う。事実、日本弁護士連合会(日弁連)はたびたび死刑制度廃止運動を行っているし、日弁連会長は死刑が執行されるたびに抗議の声明を出してもいる。

だが『死刑賛成弁護士』(犯罪被害者支援弁護士フォーラム・著、文春新書)の著者は、「死刑制度に反対する弁護士たち」なのだという(ちなみに共著になっている)。凶悪な事件に遭った被害者の遺族と向き合うなか、死刑制度の必要性を実感しているのだそうだ。

考えてみれば、そうした立場を取る弁護士がいても当然である。にもかかわらず、なぜ「弁護士だから死刑制度に反対」というような誤解が生まれるのだろうか? その点については、次のような解説がある。


 あまり知られていませんが、弁護士は法律上、日弁連に会員登録しないと活動することができません。つまり、弁護士は全員、日弁連の会員なのです。そのため、弁護士個人としては死刑に賛成であるけれども、所属している日弁連という組織は死刑に反対しているというねじれが生じます。(「序章 命は大事。だから死刑」より)

上記のように日弁連は死刑反対を唱えているため、実態とは異なるイメージが出来上がってしまうということだ。

だが著者は多くの被害者やその遺族が置かれた惨状を目の当たりにし、死刑判決を受けるような加害者の"擁護しようのない現実"を知り、死刑制度の必要性を痛感してきた。

そこで犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)という弁護士有志の団体を結成し、活動しているというのだ。

「VS」とは「victim support」の略。victim(犯罪などの被害者)をsupport(支える)のを目的としているということで、これまでにオウム真理教事件、大阪教育大学附属池田小学校で多くの児童らが死傷した事件、インターネット上の「闇の職業安定所」で知り合った男3人が通りすがりの女性を拉致して殺害した闇サイト殺人事件などに関わってきたそうだ。

死刑廃止を唱える人たちは、判で押したかのように「犯人を死刑にしたところで、亡くなった被害者の命は戻ってこない。だから、生きて償わせるべきだ」と口にする。

だが、著者の一人である高橋正人弁護士は、この主張に異議を唱える。もし犯人が心から反省して謝罪し、真っ当な人間になったのだとしたら、そして、そのことで被害者の命が戻ってくるのであれば、償う意味もあるだろう。しかし、それは理想論でしかない――。

【関連記事】トイレの前でズボンを脱ぎ、下半身パンツ1枚で待つ。これが刑務所生活の実態だ

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中