最新記事

BOOKS

トイレの前でズボンを脱ぎ、下半身パンツ1枚で待つ。これが刑務所生活の実態だ

2020年1月24日(金)17時55分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<「仮入所体験」ができると謳う『もしも刑務所に入ったら』の著者は、「日本一、刑務所に入った」という法社会学者。意外に思える刑事政策の基本姿勢も知ることができる>

『もしも刑務所に入ったら――「日本一刑務所に入った男」による禁断解説』(河合幹雄・著、ワニブックスPLUS新書)のカバーには、「本だからできる、仮入所体験」と書かれている。正直なところ、最初はこれをちょっと大げさだと感じた。

ところが確かに、読み進めていくと"入所して、そこで生活している"ような気分になってしまった。そして、「もし本当に、こんな所に入れられることになったらどうしよう」と、軽い不安を抱いたりもした。

だが著者はそもそも、"そういう本"であることを「はじめに」の段階で明らかにしていたのだ。


 さて、本書の狙いだが、
「どんなことをすると刑務所に入れられるのか?」
「刑務所とは一体どんな場所か?」
「刑務官という職種はどんなものなのか?」
 という刑務所にかかわるさまざまな疑問に答えるものである。
(中略)あくまで、小難しいアカデミックな話は抜きにして、入所から退所するまでの流れや、受刑者たちの生活実態、そして刑務所の現状を平易な言葉で追うこととする。(「はじめに」より)

つまり、「受刑者の社会復帰のために刑務所が果たす意義」というような難しいことが書かれているのではなく、「収監までのプロセス」「刑務所の種類」「そこで行われていること」などが淡々と紹介されているだけなのである。

読者はそれを受け止めるしかなく、だから結果として妙なリアリティを感じてしまうのだ。

ちなみに著者は法社会学者だが、自身について次のように記している。


 私は法務省矯正局関連の公益法人の評議員や刑事施設視察委員会委員長として、刑務所はもちろん、少年院や女子少年院など、全国各地の矯正施設を視察してきた。言い換えれば、「日本一、刑務所に入った男」と言っても過言ではない。(「はじめに」より)

そんな著者によれば、実際のところ刑務所は、そう簡単には入れない仕組みになっているという。「悪いことをすれば警察に捕まり、刑務所に放り込まれる」というような、単純なものではないということだ。

刑事政策上の基本姿勢は、「なるべく入れない、入れてもすぐに出す」。そのため、万引きなどの軽微な犯罪(それでも立派な犯罪だが)であれば、3回までは許されてしまうそうだ。

ということは4回目が分かれ目になるということだろうが、検察や裁判所が起訴猶予や執行猶予という判断を下せば、当然のことながら刑務所には入れないわけだ。

しかも入れられたとしても、死刑囚を除けば犯罪者はいつか実社会に出てくるものでもある。

とだけ聞くと、刑事政策は甘いと感じるかもしれない。だが、それを考えるにあたって無視できないのは、刑務所が「矯正施設」であるという点だ。その目的は、収容者の更生と社会復帰なのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米上院、トランプ氏の対イラン戦争権限制限案を否決 

ビジネス

米経済活動、7地区で緩やかな拡大 見通しは全体に楽

ワールド

トランプ氏、FRB次期議長にウォーシュ氏正式指名 

ワールド

米国防総省、重要鉱物の国内供給強化へ提案要請 イラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中