最新記事

新型コロナウイルス

日本の新型コロナ感染者、重症化率・死亡率が低い理由は? 高橋泰教授「感染7段階モデル」で見える化

2020年7月31日(金)18時30分
大崎明子(東洋経済 解説部コラムニスト) *東洋経済オンラインからの転載

――第2波が来たら日本は脆弱だという見方も根強くあります。

抗体検査を行ったところ、ロンドンで16.7%、ニューヨークは12.3%、東京が0.1%だった。これをインフルエンザと同じような感染症モデルで考えると、東京では感染防止は完璧だったが、抗体を持つ人が少ないので、次に防御に失敗したら多くの死者が出る、という解釈になる。このような解釈には、強い疑義を持つ必要がある。

日本は強力なロックダウンを実施しておらず、新型コロナに暴露した人が欧米より極端に少ないとは考えにくい。むしろ先に述べた「これまで多くの人が新型コロナにすでに感染しているが、自然免疫でほとんどの人が治っている」という仮説に立って、抗体ができる前に治っているので、抗体陽性者が少ないと考えるほうが自然であろう。

この仮説を用いれば、無症状のPCR陽性者が数多く発生している現状の説明もできる。第2波が来ても、自然免疫の強さは日本人にとって強い助けとなり、再び欧米より被害が軽くなるという考え方が成り立つ。

日本では暴露した人が多いが自然免疫で98%治癒

――「感染7段階モデル」により新型コロナの感染や症状に関わる要因を数値化してみたということですね。

新型コロナの患者数を予測するために使えるデータが現状では非常に限られる。かかった人の重症化率や死亡率という最も基本的なデータすらない。

新型コロナの全体像を把握するためには、全国の暴露者数を推計することが大切なので、①全国民1億2644万人、②年代別患者数の実数値、③抗体陽性率推計値(東京大学の推計と神戸市民病院の推計)を使って、パラメータである暴露率(新型コロナが体内に入る率)をいくつか設定し、動かしながら、実際の重症者や死亡者のデータに当てはまりのよいものを探るシミュレーションを行った。

シミュレーションの結果の概略はこうだ。

まず、国民の少なくとも3割程度がすでに新型コロナの暴露を経験したとみられる。暴露率はいろいろやってみたが、30~45%が妥当だろう。そして、暴露した人の98%がステージ1かステージ2、すなわち無症状か風邪の症状で済む。すなわち自然免疫までで終了する。

獲得免疫が出動(抗体が陽性になる)するステージ3、ステージ4に至る人は暴露者の2%程度で、そのうち、サイトカイン・ストームが発生して重症化するステージ5に進む人は、20代では暴露した人10万人中5人、30~59歳では同1万人中3人、60~69歳では同1000人中1.5人、70歳以上では同1000人中3人程度ということになった。

newsweek_20200731_161415.jpg

あくまでもデータが限られる中での大ざっぱなシミュレーションだが、今後、データがもっと明らかになれば精緻化できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国の再利用型無人宇宙船、軍事転用に警戒

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中