最新記事

米大統領選

選挙前の世論調査に振り回されるな

HANDICAPPING 2020

2020年5月20日(水)14時15分
サム・ヒル(作家)

自分に不利な調査結果はすべてフェイクニュースと切り捨てた4年前のトランプは、結局正しかった HILL STREET STUDIOSーDIGITAL VISION/GETTY IMAGES

<前回の米大統領選では世論調査を覆してトランプが圧勝、「番狂わせ」の理由は世論調査への誤解にあった>

11月3日の米大統領選投票日まであと半年。新型コロナウイルスの影響がどう出るかは読みにくいが、だからこそ気になるのが毎週のように発表される世論調査の数字だ。でも、ご用心。こいつに振り回されると痛い目に遭う。現に、前回(2016年)の大統領選では大方の世論調査が外れた。無惨な二の舞いは避けたいところだが、あいにく世論調査会社にも打つ手がない。

4年前、ドナルド・トランプは自分に不利な調査結果を全てフェイクニュースと切り捨てた。結果として、彼は正しかった。あの年の世論調査には大きな欠陥があった。だから世論調査の業界団体は問題点を見つけ、必要な修正を施したという。そして2年後(18年)の中間選挙ではほとんどの選挙区で予想を的中させ、「科学的」調査の勝利を宣言した。

本当だろうか。一般論として、小選挙区制の下で2大政党が争う議会選の当落は予想しやすい。それでも州単位で議席を争う上院選では、例えばフロリダなどの激戦州で読み違いがあった。全体としてみれば約8割が世論調査の結果どおりの決着だったが、初めから「当確」を打てるようなケースを除くと、世論調査の勝率は5割程度。コインの裏表で占うのと同じレベルだ。

4年前の大統領選で、最初の異変が起きたのはミシガン州の民主党予備選だった。世論調査では本命ヒラリー・クリントンがバーニー・サンダースを21ポイントもリードしていたが、結果は1.5ポイントの僅差でサンダースの逆転勝利。世論調査史上、最大の番狂わせの1つとされる。

今にして思えば、ここで警報が鳴るべきだった。しかし、鳴らなかった。代わりに、予備選段階では候補者が多くて民意も定まっていないから、結果は予想し難いものだという言い訳が用意されていた。

だが実際には、ミシガンの結果は11月の大波乱の前触れだった。あのとき既に、民主党の主要な支持基盤である若者や黒人、白人労働者がクリントンを積極的には支持していないことが明らかになっていた。

そして運命の11月8日。トランプの勝利を事前に予測する人は皆無に等しかった。各種世論調査の分析サイト、ファイブサーティーエイト(538は各州に割り当てられた大統領選の選挙人の総数)は選挙戦を通じて1106件の世論調査結果を検討したが、その中で一度でもトランプ優勢を伝えたのは71件だけ。南カリフォルニア大学(USC)ドーンサイフ校/ロサンゼルスタイムズ共同調査はその1つで、ここはトランプ勝利を見事に言い当てた。

いずれにせよ想定外の事態だったので、多くの人が動揺した。そして世論調査にも非難の矛先が向けられた。物理学で言う「観察者効果」のように、観察者(世論調査)が観察対象(有権者)の動向に影響を与えたのではないかという議論だ。

「正しかった」と業界は主張

世論調査で有利と出たので、民主党は自信過剰になったのか。勝利は確実だから自分は投票しないでいいと思う人が多かったのか。「私は観察者効果など否定していたが」と言うのは、ピュー・リサーチセンターのコートニー・ケネディ。「16年の選挙で考えを改めた」

ペンシルベニア大学のエプタック・レルケス准教授(コミュニケーション論)に言わせれば、こうだ。「一般の世論調査では、たとえ支持率が52%対48%といった僅差でも、確率論的な解釈で勝利の確率70%とされてしまう。そうすると、世間の人は確率と勝敗の票差を一緒くたにして、その候補者が70対30で勝つと考えがちだ。そして、わざわざ自分が投票しなくても勝てると信じ、棄権してしまう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中