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米大統領選

選挙前の世論調査に振り回されるな

HANDICAPPING 2020

2020年5月20日(水)14時15分
サム・ヒル(作家)

そうだとすれば、世論調査の存在意義そのものが問われる。そこで業界団体の全米世論調査協会(AAPOR)は調査に乗り出し、16年の選挙で何が問題だったかを総括し、答えを出した。不幸にして予想は当たらなかったが、自分たちは間違っていなかったという答えだ。

要約すれば、その主張はこうだ。実のところ、自分たちは間違っていなかった。全体の得票数ではクリントンが約3%差で勝つと予測していたし、実際に一般投票の得票数では彼女が約2%差で勝った。これは(科学的手法〔後のギャラップ調査〕によって最少の誤差でフランクリン・ルーズベルトの勝利を予測した)1936年の大統領選以降、最も正確な結果の1つだ。それに、当落予想が外れたのは自分たちの責任ではない。そもそも私たちは「予想屋」ではない。いずれにせよ、こうしたミスは二度と起きない。調査方法を修正したから心配ない──。

ばかげた言い分だ。一般投票の得票数は大統領の選出と関係ない。現行の選挙人制度で大事なのは州ごとの得票数だ。予想屋ではないという言葉にも誠実さが感じられない。世論調査と当落予想は切り離せない。調査会社が予想を出さなくても、人はそれを材料にして予想をする。それに、4年前の失態が繰り返されないという保証はどこにもない。

AAPORの報告で明らかになった問題の1つは、得られた数値に重要度を加える「重み付け」だ。世論調査は科学的とされるが、実はここで「主観」が加わる。AAPORの調査にも参加したピュー・リサーチセンターのケネディによると、重み付けは微妙な作業だ。

「人の行動を左右する要因を見つけなければいけない。年齢や性別、人種、地域などだ。16年のときは、大半の調査が学歴も考慮して重み付けをした。だが学歴を考慮しない調査もあった。もともと共和党が強い州では不要だったかもしれないが、中西部では違った」

学歴を重視しなかった理由は、分からないでもない。報告では、12年選挙の世論調査では投票行動に学歴差が見られなかった。だから16年の選挙で、学歴を考慮に入れない調査があったのも無理はない。

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誰もが予想しなかったトランプ大統領の誕生(写真は17年の就任式) Andrew Gombert-POOL-REUTERS

「隠れトランプ支持者」は無視

AAPORの報告によると、12年には高卒または高校中退者では民主党支持が20%ほど多かった。ところが16年には、このグループがごっそりトランプに流れた。一方で高学歴者ほど世論調査に進んで回答する傾向があるから、結果としてクリントン支持の回答が実際の割合よりも多く出た可能性がある。

しかもAAPORの報告は、最も興味深い現象を無視している。多くの調査機関は、トランプ支持を隠したがる有権者がいることを知っていた。なのにAAPORは「隠れトランプ支持者」の存在について、証拠がないと切り捨てている。

いわゆる「コミー効果」を否定している点も議論を呼びそうだ。当時のFBI長官ジェームズ・コミーは10月28日付の議会宛て書簡で、クリントンの私用メール問題に関する捜査を再開すると伝えていた。AAPORによると、これでフロリダとペンシルベニア、そしてウィスコンシン各州の有権者の13%が翻意してトランプ支持に回った。しかしAAPORは、この効果は投票日までに薄まったとし、有権者のクリントン離れはコミーの書簡以前から始まっていたと結論付けている。

だがUSCドーンサイフ/ロサンゼルスタイムズ共同調査を率いたジル・ダーリングは、「コミー効果は確かにあった」と反論する(ダーリングの調査は同一集団を対象にしているので、考え方の変化を追跡できる)。コミー書簡を境に報道がクリントンに対して批判的に、トランプに対して好意的に変わったとの分析もある。メール疑惑がトランプのセクハラ告発をかき消した格好だ。

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