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米大統領選

選挙前の世論調査に振り回されるな

HANDICAPPING 2020

2020年5月20日(水)14時15分
サム・ヒル(作家)

AAPORは調査方法にも無関心で、オンライン調査や自動音声ガイドによる調査と、伝統的なRDD方式(固定電話や携帯電話の番号を無作為抽出し、人が質問する方法)の精度は変わらないとしている。しかし、オンラインや自動音声の調査に比べてRDDのコストは10倍以上。だから今は、どうしても前者の安上がりな調査方法が選択されやすい。

こうした調査方法の違いについて、独自のデータで分析したのはスタンフォード大学のジョン・クロスニック教授(政治学)だ。16年大統領選の直前週に実施された325件(うちRDD方式は21件)の世論調査を検証したところ、自動音声などを使った調査では結果に5%程度の誤差が見られたが、RDD方式の誤差は1%未満だったという。

つまり、明らかに精度の差があった。しかし必要な修正を施したから今年は大丈夫だと、業界関係者は言う。確かに今年のミシガン州予備選では、4年前のようなひどいミスは犯さなかった。

一方で、4年前の「コミー効果」のようなサプライズに備えた対策は取っていない。その必要はないと考えるからだ。前出のケネディも「20年前なら意図的な操作で投票行動を左右できただろうが、今は世論が二極化し、それぞれの帰属意識が強くなっているから、たいした影響は出ない」だろうとみている。

だがクロスニックは慎重で、「調査の精度向上にさらなる投資をしない限り、今年の選挙で前回以上の正確な予測は期待できない」と考える。つまり、費用がかかってもRDD方式の調査を増やさないとダメということだ。

やはり投票は自分の判断で

あいにく、そんな追加投資は期待しにくい。世論調査に対する回答率は年々下がっており、クロスニックの望むような精度の高い調査にかかるコストはずっと上がっているからだ。ピュー・リサーチセンターによれば、97年には3人に1人が電話調査に回答したが、今では15人に電話をかけてようやく1人の回答を得られる程度。そもそも、携帯電話に未登録の番号からかかってきた電話には出ない人も多い。

それに、考えられる限りの修正を施し、全ての調査をRDD方式にしても、それで正確な数字がつかめる保証はない。そうであれば、問題は調査をする側ではなく、世論調査に過大な期待をする私たちの側にあるのかもしれない。

前回の大統領選で投じられた票数は全部で約1億3600万。しかし勝敗を分けたのは3つの州(ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア)でトランプがクリントンを上回った票数の約7万8000票。この3州で投じられた票のわずか0.6%だ。そしてどんなに厳密な世論調査でも1%は誤差の範囲内。そんな僅差で勝敗を判じるのは無理だ。

調査する側も自分たちの限界は承知している。だからこそ彼らは勝敗を「確率」で予想する。しかし有権者は確率論で考えない。

AAPORの報告を主導したダートマス大学のショーン・ウェストウッド准教授は、「この調査で分かったのは、有権者を混乱させない形で世論調査の結果を伝えるのは不可能に近いということだ」と指摘している。「勝利の確率70%」というのは、選挙を3度やれば2度は勝つということ。しかし現実の投票は1回だけで、そこで負ければおしまいだ。

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