最新記事

日本人が知らない 休み方・休ませ方

日本人は本当の「休み方」を知らない──変われないのはなぜか

HOW WILL THE VIRUS CHANGE WORK?

2020年5月14日(木)10時40分
宇佐美里圭、森田優介(本誌記者)

magSR200513_work2.jpg

ILLUSTRATION BY STUDIOSTOKS/SHUTTERSTOCK

しかも、今後は人工知能(AI)の活用によりアイデアが勝負の世界になっていく。立命館アジア太平洋大学の出口治明学長も、休みがもたらす経験と学びの重要性を説く。

「脳科学者たちは1回の集中は2時間が限度だと言っている。そういう事実を無視するから、日本は長時間労働の割に1%も経済成長していない」と出口は言う。「世界でユニコーン(非上場で10億ドル以上の企業価値があるベンチャー企業)が400社近くもあるのに、日本には3社だけ。日本人はもっと早く仕事を切り上げ、人に会い、本を読み、旅をするべき。一人一人が職場以外で経験を広げ、学ばないと日本は滅びる」

もっとも、働き方改革が進んだ背景にはより切実な問題もある。

日本は人口減少、少子高齢化により15~64歳の生産年齢人口が減少の一途をたどる。2019年に総務省が発表した人口推計によると、2018年10月の生産年齢人口の割合は59.7%で過去最低となり、働き手不足が着実に進んでいる。これまでの「男性正社員の夫+専業主婦または非正規雇用の妻」というパターンは既に崩れており、高齢者の就労促進や女性の社会進出、外国人人材の受け入れを進めるしか日本に残された道はない。

そして多様な人材を確保するためには、それぞれの状況に応じた柔軟な働き方・休み方を許容することが求められる。それは何も出産、介護を担う人だけに限らない。2人に1人が癌になると言われる時代、闘病しながら働く人もそこに含まれる。

売り手市場と言われている昨今の就職戦線で、学生たちの視線も厳しい。優秀な人材は条件のよりよい職場に流れる。近年、日本の企業が「働き方・休み方改革」に力を入れるのにはこうした事情もある。

早稲田大学の小倉が注目する企業の1つは、福岡県に本社がある建設機材レンタル・リース業の拓新産業だ。従業員60人程度の中小企業だが、有休消化率100%、残業時間は年間合計で1人2時間、休日出勤ゼロという驚異的な数字を出している。約30年前、会社説明会に学生がほとんど来なかったことで当時の会長が危機感を抱き、いち早く働き方改革に踏み切った。

今では優良企業としてあちこちで表彰され、九州の優秀な学生が殺到する。「優秀な人材が集まるから業績も右肩上がり。中小企業だからできない、下請けだからできないというのは言い訳だ」と、小倉は言う。

しかしいくら休みの大切さが分かっていても、「休めない」「休ませられない」のが現実だ。目の前にはやるべき業務がある。休みたくても休めないという人が大半だろう。

なぜ日本はなかなか変われないのか。その疑問を解くために、日本型雇用システムの歴史をひもとく。

安定した雇用と引き換えに

日本型雇用システムの特徴は「長期雇用」と「賃金の年功序列制」と言われる。しかし労働政策研究・研修機構研究所長の濱口桂一郎は、最も重要なポイントは「雇用契約の性質」だと指摘する。

「日本の雇用契約書には職務がはっきり書かれていない。いわば契約書は『空白の石板』。雇用者が命じたことが仕事になる」と濱口。「さらに、時間も場所も無限定。つまり言われた場所で言われたことをやるという前提で雇用する。これがいわゆる『メンバーシップ型』だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中