最新記事

医療

動揺する日本の医療現場 新型コロナウイルスと長期戦の備えに不安

2020年4月29日(水)10時27分

受け入れ不備が生む問題

患者受け入れ体制の不備が原因となった問題も相次いでいる。ICUで働く上記の医師が説明した一つのケースでは、80代の新型コロナ患者が地元の病院での受け入れを繰り返し拒否され、350キロ以上離れた東京の病院に移送された。この男性患者には東京の病院でECMOや救命措置をとったがその後、自宅に戻ることはなく、東京で死亡したという。

「現場で受け入れ可能と判断しても、上に報告すると病院長から拒否されるケースもある」。同医師は病院側の複雑な内情に触れるとともに、新型コロナ感染症の患者を受け入れている病院の大半は赤字覚悟で治療に当たっていると述べた。

東京都によると、都内では3月に救急搬送された患者のうち、5つ以上の病院で受け入れを拒否されたり、20分以上受け入れ先が見つからなかったケースが931件と、昨年同月より約3割増えた。

医療機関への支援拡大が必要

医療関係者の懸念に対応して、厚生労働省は補正予算で医療機関への1490億円の交付金を創設、医師や看護師の派遣などにかかる費用も支援する。

同省は、新型コロナの重症患者をICUで受け入れた医療機関に対する診療報酬を2倍に引き上げる措置を発表しており、こうした対策が医療機関の支援に大きく寄与するとしている。

愛知県の大村秀章知事はロイターのインタビューで、国による医療機関の支援がさらに必要だと主張。同知事は今月、新型コロナ感染患者を受け入れた県内の医療機関に対し、最初の患者が出た1月に遡り、1人につき100万円ー400万円を交付する計画を発表している。

欧米や中国などと違い、日本には感染拡大防止のための厳格なロックダウン(都市封鎖)を強制したり、隔離方針に従わない企業や個人を罰する法的権限が当局にはない。政府は今月半ば、緊急事態宣言の対象を7都府県から全国に拡大したが、それでも大半の病院に患者受け入れを強制することはできない。

東京都新型コロナ感染症対策本部の担当者は、「われわれには(病院に患者受け入れを)強制する法的手段がないが、もしあったとしても、感染症対策ができていない病院に受け入れを要請すべきだとは思わない」と語った。


【関連記事】
・欠陥マスクとマスク不足と中国政府
・ベルギーの死亡率が世界一高いといわれる理由、ポルトガルが低い理由......
・東京都、新型コロナウイルス新規感染が112人確認 都内合計4000人を突破
・新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(28日現在)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中