最新記事

米中関係

ミズーリ州が新型コロナ被害で中国を提訴した深い理由

Missouri Opens Up a New Front Against China in Coronavirus Blame Game

2020年4月27日(月)19時20分
キース・ジョンソン

人口10万人当たりの死者数で最低の中国を指差し、「信じられるか?」と言うAl Drago-REUTERS

<コロナ禍で被った健康的・経済的被害の責任を中国に求める訴訟を米ミズーリ州が起こした。「主権免除」という大きな壁があるのはわかっているのになぜ?>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)を巡り、米ミズーリ州は21日、中国政府と中国共産党の責任を問う訴訟を米連邦地裁に起こした。これまでに5万人を超える死者が出るなど感染拡大が深刻なアメリカでは、中国の責任を追及する声が政府高官などから上がっている。

とは言うものの、現行法の下でミズーリ州が勝訴するのは難しいと見られている。同州の狙いはどちらかと言えば、連邦議会での法整備の動きを加速させることにあるようだ。念頭にあるのは2016年に成立した「テロ支援者制裁法(JASTA)」。悪意ある行為によって被害を受けたアメリカ国民が外国政府に訴えを起こすことを可能にする内容で、具体的には9・11同時多発テロの犠牲者遺族がサウジアラビアに損害賠償請求することに道を開くための法律だ。

ミズーリ州のエリック・シュミット司法長官が提出した訴状によれば、中国政府と中国共産党および複数の政府機関の対応は怠慢で欺瞞に満ちたもので、パンデミック(世界的大流行)の発生や急速な感染拡大、医療従事者が防護用の装備を十分に入手できなかったことへの究極的な責任を問われるべきだというのが同州の考えだ。

パンデミックの責任を中国に転嫁する動き

「感染拡大初期の重要な数週間、中国当局は世間を欺き、重要な情報を隠し、内部告発者を逮捕し、人から人への感染の証拠が積み上がっているのにそれを否定し、重要な医療研究を握りつぶし、多くの人々がウイルスと接触するに任せ、(医療従事者用の)防護用の装備を出し渋った。その結果、本来であれば不要で防止できたはずの世界的なパンデミックを引き起こすに至った」と、訴状には書かれている。「被告(中国側)は、膨大な死と苦しみと経済的損失をミズーリ州民を含む世界にもたらした責任がある。その責任を取らせるべきだ」

アメリカではパンデミックの責任をできうる限り中国に転嫁しようとする動きがドナルド・トランプ大統領を初めとする高官から出ている。アメリカ国内における健康的・経済的被害が拡大する中で、彼らは新型コロナウイルスのことを「中国ウイルス」とか「武漢ウイルス」と呼び、感染拡大に中国政府が果たした役割について攻撃を続けている。米中関係は今年のアメリカ大統領選において大きなテーマとなっているが、コロナ禍はトランプに新たな攻撃材料を与える形となっている。

<参考記事>「中国ウイルス」作戦を思いついたトランプ大統領は天才?!
<参考記事>ポストコロナにやって来る中国覇権の時代

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット

ワールド

インドとパキスタン、停戦合意から一夜明け小康 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中