最新記事

日本に迫る医療崩壊

日本で医療崩壊は起きるのか? 欧米の事例とデータに基づき緊急提言

THE HEALTHCARE SYSTEM AT WAR

2020年4月21日(火)17時10分
國井修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

magSR200421_kunii3.jpg

医療崩壊が起きたスペインではバルセロナの駐車場が遺体安置所に PABLO MIRANZO-SOPA IMAGES-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES

専門医に聞くと、統計上、日本のICU病床数は少ないが、酸素や人工呼吸器を使って集中治療できる病床数はかなり多いという。できるだけ多くの医療機関で不要不急の手術や処置を控え、退院・転院できる患者は自宅や別の施設に移し、感染爆発に備えた病床を確保することは急務である。また、病院の敷地内や公園などの大規模施設に仮設の検査・診察・入院施設を設置することも検討すべきだろう。

日本では、軽症者・無症状者は「自宅療養」、家族に高齢者や医療従事者がいる場合は優先的に「宿泊施設での療養」とすることになった。医療機関への負担や院内感染を減らすためにも、賢明な方向転換である。新型コロナの集団感染の8割は家族間で起きたという中国の報告もあり、自宅以外の宿泊施設を十分に確保し、効率的・効果的な隔離と健康管理、疎外感や不安などに対するこころのケアを提供する必要がある。

また、新型コロナに関する相談窓口、検査の拡大・効率化も急務だ。窓口に電話をしてもつながらない、相談や検査ができずに不安になり医療機関を訪れる、受診を拒否されるため救急車を呼ぶという連鎖を断ち切るためにも、スマートフォンやネットなどでの相談・診療など、IT技術、遠隔医療の導入は必要だ。

感染動向を知り治療方針を考える上で、現在のPCR検査の実施体制を強化すること、また、精度のより高い検査方法の開発・導入は重要である。ただし無症状や軽症者にPCR検査を行うときは、その適応や事後対応を検討し慎重に行うべきと私は考える。検査結果がどうであれ、現時点でやるべきことは自己隔離であり、検査が陰性だからといって外出や仕事を続けることのほうが危険だからだ。現在のPCR検査は感染者10人を検査すると少なくとも3人を誤って陰性としてしまう。検査をして7人を安心させるより、3人をスーパースプレッダーにするほうが怖いのだ。

「ヒト」を招集し「モノ」を増産せよ

「ヒト」については、イタリアは今年、医師試験を免除して医学生を招集し、約1万人を現場に投入した。スペインでも、1万4000人の引退した医師や看護師を含む5万2000人の医療従事者を集めている。

日本でも、感染爆発を想定した人材確保を真剣に考えなくてはならない。不要不急の診療や処置などが減ったことで、時間の余裕ができた医療従事者もいると聞く。そのような人々が支援に参画できるメカニズムも検討する必要があるだろう。

新型コロナの集中治療、人工呼吸器やECMOの操作などができる医療従事者は限られている。しかも通常、日本では重症者2人を看護師1人で見ているが、新型コロナの重症者の管理には個人防護具が必要で、さまざまな制約が伴うため、重症者1人に看護師2人が必要になるという。感染爆発を想定して、できる限りの人材確保と適正配置を考えるべきだ。

「モノ」では、世界全体では現在88万台の人工呼吸器が不足しているという分析がある。各国ともその獲得に必死で、メーカーはフル稼働しているが、特に自動車製造が持つさまざまな工業技術は、新型コロナ対策のモノ作りに役立つという。ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、日産自動車などが人工呼吸器の増産に参入し、さらにマスクやフェイスシールドなどの製造を始めている。

日本を含め各国政府は国内企業にマスクなど防護具の増産を要請しているが、それでも足りず多くの国が今も輸入に頼っている。中国は3月1日からの約1カ月間で、マスク38億6000万枚、防護服3752万セットなどを輸出し、無償供与もして「マスク外交」とも呼ばれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ゼレンスキー氏の正当性に疑問 戒厳令で

ワールド

ロシア誘導爆弾、ウクライナ北東部ハリコフで爆発 2

ワールド

ウクライナ和平、「22年の交渉が基礎に」=プーチン

ワールド

イスラエル、ガザは「悲劇的戦争」 国際司法裁で南ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中