最新記事

新型コロナウイルス

ファウチ博士「もう少し早く動いていればもっと命を救えた」

Fauci: U.S. 'Obviously' Could've Saved Lives by Earlier Coronavirus Action

2020年4月13日(月)15時55分
ジェイソン・レモン

重症患者を収容しきれず、ニューヨーク市クイーンズ区のテニスセンターの上に作られた仮説病院のベッド(4月10日) Eduardo Munoz-REUTERS

<トランプ政権の新型コロナ対策チームの責任者は、感染抑止対策の開始が早ければ、死者数を抑えることができたかもしれないと本音をもらした>

新型コロナウイルス対策の最高責任者を務める国立アレルギー感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士は、他人と距離を置く「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離戦略)」やその他の感染防止策がアメリカでもっと早く実施されていれば、「明らかに」より多くの命を救うことができていた、と語った。

この発言が飛び出したのは、CNNによる4月12日のインタビュー番組の最中。トランプ政権の保健当局の幹部らが、2月の時点で感染防止対策を実施しようとしていた、というニューヨーク・タイムズ紙の報道について聞かれたファウチは、健康に関する勧告に政権が従う場合もあれば、そうではない場合もあると曖昧に答えた。

「勧告が受け入れられることは多いが、そうでないこともある。それが現実だ」

後になって考えれば、正しい選択がよりはっきりと見えるものだとファウチは指摘し、トランプ政権への批判をかわそうとしたのだが、結果的には初動の遅れを認めることになった。

「明らかに、現在行っているような対策を、もっと早い時期に始めていれば、多くの命を救うことができたとはいえる」と、ファウチは語った。「誰も否定しようがないことだ。だがこうした決断は、簡単に下すことはできない。とはいえ、確かに、最初から、すべてを封鎖していたならば、少しは違う展開になっていたかもしれない」

対応の遅れが批判の的

ファウチはインタビューの後半で、11月の大統領選挙の投票日までに、アメリカ人の暮らしが正常な状態に戻り、有権者が安全に投票に参加できるようになることを望んでいると語った。それでも「次の秋から初冬の初めにかけて、再発が起きる可能性は常にある」と警告した。一方トランプは、4月半ばまでに経済活動を再開すると言い続けている。

新型コロナウイルスへの感染者数と死亡者数はアメリカ全土で急速に増加し、いずれも世界最悪になったことから、トランプとその政権の対応の遅れに批判が集中している。

WHO(世界保健機関)は中国での新型コロナウイルス感染流行を受けて2019年12月31日に警告を発し、アメリカでは韓国と同じ1月19日に初の感染例が報告された。トランプ政権幹部や政策顧問も2月には、感染拡大の可能性と数兆ドルの経済損失の可能性をメモで警告していたが、トランプはウイルスの脅威を繰り返し過小評価した。そのため初動でウイルス感染の本格的な検査が遅れ、ウイルス拡散の追跡調査が困難になっている。医療品の不足も深刻だ。

「私たちはこの危機が教えてくれたことを覚えておく必要がある。トランプ政権は国家的な脅威に対応する計画も準備もなく、脅威を正当に評価し、伝えることもできず、壊滅的な結果をもたらしたのだ」と、4月12日のニューヨーク・タイムズ紙の論説欄で、民主党の最有力大統領候補でトランプのライバルのジョー・バイデン元副大統領は書いた。「私たちはこうした過ちを繰り返すわけにはいかない」

ジョンズ・ホプキンス大学の追跡調査によると、12日の午後の早い段階で、アメリカにおける新型コロナウイルスの感染者数は53万人を超え、そのうち2万人以上が死亡、3万2000人以上が回復した。

(翻訳:栗原紀子)

<参考記事>あまりにも悲痛な事態を前に言葉を失うアメリカ社会
<参考記事>新型コロナのデマ情報を広めるトランプ、それをただす勇者ファウチ(パックン)

20200421issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ワールド

NZ企業信頼感、第2四半期は改善 需要状況に格差=

ビジネス

米ホーム・デポ、特殊建材卸売りのGMSを43億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中