最新記事

コロナ後の世界

「コロナ後の世界」は来るか?

2020年4月6日(月)17時25分
鈴木謙介(関西学院大学社会学部准教授)

ユヴァル・ノア・ハラリの「コロナ危機後の世界」についての論考は話題となった REUTERS/Denis Balibouse

<ユヴァル・ノア・ハラリの論考が話題となった。ハラリの憂慮するような世界が本当に訪れるのであれば大きな問題だし、リベラルでオープンな社会を目指すべきだという主張にも同意する。しかし......>

この数週間、世界中の人々の関心は、新たな感染症の拡大と、それに伴う種々の社会的影響に集中している。情報の同期性が強まり、同じ話題をリアルタイムに共有することが可能になった現代では、このような危機的状況での不安や懸念も即座に拡散される。先が見通せない中で、指導者の思い切った決断が必要だとか、もたもたせずに迅速に行動すべきだといった主張も見聞きされるようになった。

そうした中、ユヴァル・ノア・ハラリが日本経済新聞に興味深い論考を寄稿している。その内容は、政治的な決断とリーダーシップを求める声が、国家権力による監視の強化と孤立主義を深めることを憂慮し、市民の知識をアップデートすることや国際的な連帯を強くすることを求めるものだ。つまり「コロナ後の世界」が、独裁的で権威的なものになるか、リベラルでオープンなものになるか、という選択に直面しているというのである。

suzuki20200406.jpg

もしも、ハラリの憂慮するような世界が本当に訪れるのであれば大きな問題だし、リベラルでオープンな社会を目指すべきだという主張にも同意する。しかしながらハラリの主張は、グローバリゼーションについて研究する立場から見ていくつかの疑問点があるし、さらにいえばそのレトリック(語り口)にも問題があるように思う。そこでこのエントリでは、社会学がグローバリゼーションについてどう扱ってきたのかを振り返りながら、「コロナ後の世界」は本当にやってくるのかという話をしてみたい。

社会学におけるグローバリゼーションの扱い

社会学は、伝統や共同体による束縛が弱まり、人々が自由意志に基づいて行動することが基本となった近代社会において、個々人の意思や思惑に還元されない社会現象を対象に、そのメカニズムや影響について研究する学問だ。対象となる現象の幅は広く、またそのレベルも、日常生活のいち場面から、グローバリゼーションのようなマクロな現象まで様々ある。

とりわけグローバリゼーションについては、金融や貿易などの国際的な資本と資源の移動だけでなく、労働力や観光者の移動、そしてメディアによる情報の移動やそれがもたらす価値観、文化の変容といったテーマが取り上げられてきた。たとえば、メディアがある社会の文化を他の社会に伝達し、それに伴って人や資源が移動すること、具体的には、日本の食文化が日本以外の社会に伝わり、日本食を求める訪日観光客が増加するといったことが挙げられる。

経済のみならず文化やコミュニケーションの領域で起きる変化は、人々に「経験の変容」をもたらす。行ったこともない外国の、食べたことのない料理を求める気持ちが高まるなどということは、情報が閉ざされていた世界では考えられないことだった。社会学は、人々の経験が変容することで、ヒト・モノ・カネの移動にも影響が出ると考えてきたのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中